生粋人

<最終回>“長く強くたくましく”。期待と希望の麺。水鳥製麺所・水鳥一

家族とともに。あと10年。

水鳥製麺所の麺は、一般の人も購入することができる。ホームページから電話かファックス、または店に直接訪れてみてほしい。
取材中も近所のなじみ客数名が、製麺所の扉を開けた。

「ここの麺はすごくおいしい。のど越しもよくて、もちもちしていて」と女性客は話す。餃子の皮や蕎麦など数点を購入し、それぞれ適した調理法や保存法を熱心に聞いていた。

昨今のコロナの影響で、取引のある飲食店のほとんどは危機的状況に。しかしなんとか持ち直し、ここ数日でまた仕入れの連絡が復活するようになったのだという。
「代わりに、個人のお客さんがとても増えましたね」と水鳥さんは驚く。娘さんがSNSで積極的に発信をはじめると、そのこだわりと昔ながらの製法に魅力を感じた人が、注文してくれるようになったのだそうだ。

娘たちがうちの麺のことをこんなふうに良く思ってくれていたなんて、知らなくてね。僕はそういうのに疎いから、娘に叱咤されながらやっていますよ。コロナにならなかったら、気づかなかったことです。こうして、いろいろ発信していくことで、うちの商品を知ってもらえたら嬉しいですね」

特に人気なのは、この「青じそそば(うどん)」麺100gあたりになんと青じそが約10枚も練り込まれた、水鳥製麺所オリジナル商品だ。青じそ独特のクセを感じないのに、噛んで飲み込むときに鼻腔からふわりとさわやかな風味を感じられる。実は豊橋市は、青じその生産量が日本一。地域に根付く製麺所ならではの取り組みといえるだろう。

作業場には、-30度のエタノールで瞬間的に凍結させる技術も完備。生めんのコシと鮮度を保ったまま、全国の飲食店に発送が可能だ。

今後ますます忙しくなりますね、と聞くと、水鳥さんは一瞬複雑な表情を浮かべてから口を開いた。

「本当のところをいえば…ここにあるひとつひとつの商品のストーリーを、継いでいってほしいという気持ちはありますね。どれも思い入れがありますから。けれど、僕のところは娘が3人だから…今後についてはちょっとどうかな、というのが現実かな。それに、こんな大変な思いや苦労をするのは自分だけで十分。自分の伴侶や家族にはさせられないね、っておふくろとも言ってるんです」

家族に支えられ、家族と共に頑張ってきたからこそ、この仕事を続けていくことに迷いもある。
たくさんの人の期待と希望が込められた麺だからなおさら、中途半端にはできないのだ。

でもね、と水鳥さんは続ける。

これまでもいろんなことがあったけれど、まだまだ自分が知らないことばかりだなと。SNSだってこんなに反響があって、びっくりしてるんです(笑)。だからまだ辞められない。とりあえずは、昔のお得意様の言葉を借りて『あと10年』は頑張ってみようかな

取材後、水鳥さんは、見えなくなるまで私たちに手を振ってくれた。
「ここのラーメン屋さんの麺がおいしいよ!お蕎麦屋さんならここがおすすめ!豊橋に来たら行ってみてね!」。
別れのギリギリまで、麺の話をしてもらえたことがうれしかった。

何かに一生懸命になること。
それはときに家族や大切な人を巻き込んで、その人の人生までも変えてしまうことがある。
けれど、一生懸命はやめられない。

懸命は、一生続いていくのだ。

水鳥製麺所
愛知県豊橋市植田町字西山田12-8
0532-25-2520
11:00~17:00(電話受付は9:00~18:00)
日曜休(祝・祭日も営業)
HP:http://www.doumaimen.com/
NET SHOP:https://doumimen.shop-pro.jp/

Text:光田さやか
Photo:荻野哲生

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