生粋人

<第2回>家族をつなぐ、木の家具。“誰かのため”の仕事を。「CONNECT」代表・水野照久

つながりの先に、木がある生活。

自分の目で信じた「本物」だけを揃えることにこだわった水野さん。やがてメーカーのものだけではなく、自社のオリジナル家具も製造し販売したいという思いを強く持つようになった。こちらの要望に応えつつ、デザイナーや工場がそれぞれ個性を持ち寄り、形にしていく。こうしてできていくオリジナル家具のひとつひとつに、完成までのストーリーがあることが大切だと思った。

 特に水野さんが熱心に取り組んだのは、ダイニングテーブルだ。「ダイニングは、家族が毎日集まる場所でしょう?子どもが大きくなってそれぞれの部屋を持っても、ご飯はみんな揃って食卓で食べる。そこに、家族で過ごした記憶が残る。その記憶を、木のテーブルが継いでいってくれると思うからです」と思いを明かす。

驚くべきことに、『CONNECT』のダイニングテーブルは全て、天板と脚が別売りなのだ。天板の大きさや厚み、手触りなどは家族でも人それぞれ好みや感じ方が異なる。その要望に水野さんは、数㎜単位で応えていく。家族の記憶をつないでいく大切な役割があるからこそ、慎重に、気に入ったものを選んでほしいという思いがあるからだ。

 「ですからうちでダイニングテーブルを選んでもらうときは、ぜひ子どもから大人まで、家族みんなで選びに来てほしいです。それすらも思い出になりますよね。このテーブル、みんなで選んだよねって

テーブルを使う前から、家族の記憶は刻まれているのだ。

 水野さんが2013年から仲間と行っている「コダマプロジェクト」という取り組みにも、『CONNECT』の根幹が見て取れる。ショップを運営しながら林業の関係者とつながりができ、国産の木の問題に気づかされたことがきっかけで発足したプロジェクトだ。

 「あるとき、社員で郡上の山を訪れたのですが、そこで衝撃を受けたんです。木はたくさんあるのにほとんどお金にできていない。日本の木は、供給はできても需要がない。従事者そのものの数も減るなかで、木の仕事が、ちゃんと利益として還元されていませんでした

 水野さんはふと気づいた。そういえばこれまで自分の店でも「国産の木」を謳っている商品がなかったということに。ここ数十年、安価で手に入る安い輸入木材が台頭してからというもの、日本の木は市場で求められなくなっていたのだ。話を聞くうち、山の問題は、山を下った先にある“まち”の生活にも影響を及ぼすのだということも学んだ。蛇口をひねればおいしい水が飲める。釣った魚を安心して食べることができる。それらは全て、山の仕事の恩恵の上に成り立っていたのだった。そしてそれを“まち”に住む自分たちが知らなかったことが、悔しかった。

加えて、林業は先の長い仕事だ。今手入れをして、30年、50年、100年先にまで豊かな山を残すために従事する。すぐに利益が見込めないという点も、問題だと感じた。

 なにかできないだろうか?山の問題は、巡り巡って自分たちの問題だと考えた。こうして一年間の構想ののち「コダマプロジェクト」を立ち上げ、仲間や林業従事者と「コダマデスク」をスタートさせた。「体験」という付加価値をつけた子ども用の学習机だ。

 「毎年三月、入学前のお子さんと親御さんで一泊二日、岐阜県の山で宿泊していただきます。そこでは山で木を伐るところを見たり、丸太をノコギリで切ったり、ランドセルを引っ掛けるフックを作ったり。約一ヶ月後には自宅にコダマデスクが届く、というものです。合宿で作ったフックをつければ、自分だけの学習机になります」

自分の身の回りのものが、どこから生まれてどのように作られて手元に届くのか。子どものうちからそういった体験をすることで、山に興味を持つだけでなく、道具への愛着も湧く。山の職人にとっても、自分たちの仕事が直接使い手に届くことでやりがいも感じられる。この他にも「コダマプロジェクト」では、食品や生活雑貨などの視点で、山を支援している。誰もがアイデアメーカーに、誰もがユーザーになり得る活動だ。

上流の山と下流の街。木の体験を通して二者はつながるのだ。

<最終回>へ続く

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