人はなぜ、木の家具に魅せられるのだろう。
手触りがいい、温もりがある。果たして、理由はそれだけなのだろうか。
木の家具には、自然の記憶と、家族の記憶が刻まれていくから、ではないだろうか。

そんな木の家具を中心に扱う『CONNECT』が名古屋市守山区にある。
代表の水野照久さんにとって木の家具は「つなぐ家具」だという。ネットショッピングが普及し、実店舗を持たない家具店が増えてきているなか、あえて店舗営業しているのは、あくまで自店を「つながる場所」として捉えているからなのだという。
「僕はこの店を開くときに、作り手がわかる家具を置きたいと思いました。どこの誰が作ったのかわからない家具よりも、この人がこんな思いで作ったという、その背景まで一緒に、使い手に届けたかったんです」
「つなぐ」という意味をもつこの店は、水野さんの思いがかたちになったものだった。
誰のための仕事か、なんのための家具か。抱える問いの答え。
水野さんのお父さんはもともと、この地で『みずのかぐ』という家具店を営んでいた。職人だった父親は家具を作り販売していたが、時流もあり30年ほど前に小売へと事業転換。水野さんも家業を手伝うかたちで店舗の経営に携わった。
今でこそ、一点ものやオーダーメイドの家具を取り揃えるが、当時は“超安売り店”だったという。

「今では想像もできないかもしれませんが、当時は毎週チラシを入れてセールのお知らせをするような店だったんです。外壁も真っ黄色でしたし。タンスをずらーっと上に並べて、価格勝負!という形態で商売をしていました」
約15年前までは守山区の本店以外にも2店舗あり、従業員も大勢いた。だが、忙しいばかりで儲けは少ないのが現状だった。当時の流行でもある輸入ものの安い家具を仕入れていたため、すぐに壊れたり傷があったりで、客からはクレームが続いた。従業員同士の関係も、家庭の中もギクシャクし、みんなが疲れ果てていたという。
「誰のために、なんのために家具を売っているんだろう、って。これじゃあ疲れるばかりで誰のためにも、なんのためにもなっていないなって。このままではいけないなと思い、本格的に業態を見直すことにしたんです」

展開していた2店舗は閉め、守山区の本店のみで営業を続けることにした。そこで水野さんは、「どんな店なら人を幸せにできるだろう?」と自分自身に問うた。従業員とも思いをぶつけ合い、店作りについて夜通し話し合った。
そこで得た共通の認識。それは「誰かのためにならない仕事ほど、つらいものはない」ということだった。
ものを売ればお金になる。しかし、売り方ひとつでそのお金は関わる人を不幸にもするのだ。水野さんはそのことを、身をもって痛感した。
そこで、会社の理念をこう定めた。「家具で人を幸せにする」と。

「この言葉が、僕もみんなもすごくしっくりきたんです。この言葉が根底にあるからこそ、今も頑張れている。誰かのためになるなら、頑張ろうって」
では、具体的に何ができるだろうと水野さんは考えた。職人だった父親とは違い、家具を作ることはできない。デザインすることもできない。ただ、作る人と使う人が「つながる」場所を設けることはできる。

こうして『CONNECT』は誕生。安く仕入れた大量の輸入品ではなく、売るのは作り手のこだわりが宿る“作品”の数々。大量生産の家具には真似できないその素晴らしさを客がじっくり見て買うことができる店に、生まれ変わったのだった。
<第2回>へ続く
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