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“信頼”の上に成り立つ商いを。――岐阜県岐阜市「絹屋」高橋逸朗

岐阜県岐阜市、柳ケ瀬商店街にほど近い立地。新旧様々な商店が立ち並ぶ一角に、ひときわ高級感のある看板が視界に飛び込んでくる。
呉服店「絹屋」だ。

こちらのご主人・高橋逸朗さんは、この地で呉服店を営む二代目。昨年店舗を新しくしたばかりで、店内には真新しいい草の香りがふんわりと漂っている。

呉服。正直なところ、決して安くはない買い物だ。
一年に何十枚と購入するようなものとも違う。
しかし、冠婚葬祭などの有事や、ちょっとしたお呼ばれのとき、確実にその人の“格”を上げてくれる、大切なものだ。

するりと解いた反物に触れながら、
反物そのものではなく、大切なのは人。人からモノを買う、ということを、私はとても大切にしています」と話す高橋さん。
その思いを尋ねた。

商売人のあるべき姿。この人だから買いたいと思われること。

高橋さんのお母さんが店を構えたのは今からおよそ半世紀前。学生時代、母親の仕事ぶりを見て育ったという高橋さんは、東京の呉服店で4年ほど修行し、そこで商売のいろはを学んだ。

「どんな商売でも、モノを売るとなればそれなりの知識をたくわえますよね。アピールしなくてはいけませんから。けれど呉服は違うと思っています。モノではなく人柄を売るんです

「絹屋」に訪れる客は、先代からの付き合いになる人も多いという。
ある女性の成人式の着物を仕立てるところに始まり、その女性が嫁いで、今度は訪問着を仕立てる。やがて子どもが生まれ、今度はその子の成人式の着物を仕立てに、また「絹屋」を訪れるというのだ
「絹屋」の取り扱う反物の質やこだわり、仕立てる着物が素晴らしく、それそのものを気に入っているからリピーターになるというのはもちろんだ。
しかし、同時に“人柄”も売っていなければこうはいかないという。

ではどうしたら“人柄”を売ることができるのだろうか。

「そうですね…。特別なことではないのですが、お客様に季節のお手紙をお出ししたり、ご家族のお祝い事があればご進物品をお贈りしたり。差し出がましいかもしれませんが、大切な人生の節目にお会いできたご縁とでもいいますか、そういったものを大切にしているだけです

贈り物のセンスがまた良くてね、と言いながら、高橋さんは隣に座る奥さんをちらりと見た。突然話題を振られて幾分か恥じらいながら、奥さんの紀子さんは笑う。
品物を選んだり文をしたためたりするのは、紀子さんの役目のようだ。

会話をしていく中で『この方、こういうものがお好きなんだな』って学んでいくんです。それを、なにかのときにふっとお贈りできたらと。先代はとても話し上手で気風の良い方だったのですが、私はあんなふうに話題を広げたり楽しい会話を膨らませるような話術は持ち合わせていないので…(笑)。だから私にできるのは、お客様のお話を聞くことかなって。もちろん先代の女将から学んだことは他にもたくさんあって、小物の取り合わせや色合わせなんかがそうですが…。自分なりに精一杯頑張ろうと思って。日々努力しています」

良い品と、それを売る人の人柄。そのどちらもが合わさったとき、それは“信頼”へと変わる。その“信頼”こそが、「絹屋」の土台を作っているのだろう。

確かな品質。職人のこだわりが随所に。

繰り返すが、「絹屋」が取り揃える着物は、どれも高品質だ。全国の問屋と連携し、ここにしかないクオリティを作り上げている。皇室の女性も御用達だという京都の老舗問屋に、岐阜県内では「絹屋」にしか卸さない、と言わしめているほどだ。

お客様からの要望を聞き、「絹屋」がそれをつぶさに把握。微妙な色合い、色の移り変わり、柄の入り方…。お客様に同じことは二度言わせない、が自身のルールだそうだ。

そしてそれを、今度は問屋に伝える。どんな着物にしてほしいのか、どんなお客様がどう着たいのか。ニュアンスを損なわず綿密に伝える。
しかし何度も何度もやりとりは発生しない。問屋も「絹屋」も、長年の付き合いと、職人どうしのこだわりが交わる“阿吽の呼吸”で、互いの要求がある程度わかるというのだ。
そうしてできた一着は、客のみならず、問屋にとっても「絹屋」にとっても、やはりかけがえのないものになるのだろう。

はんなり、しとやか、上品、気品、小粋。
そんな言葉が、「絹屋」の着物には似合う。これを着たいと思える人。着こなせる人。自分だけでなく次の代まで遺したくなる人。そんな人になれたら、どんなに心が豊かになれるだろうか。
全員が全員、うちの着物を気に入ってくれなくてもいいんです。私たちや職人のこだわりや、うちの着物が持つテイスト。それらに共感してくださったお客様と、長くご一緒していけたらと思っています

一枚の着物に息づく、売り手、買い手、作り手の心。
人生の節目を飾る一着を、誂えてみては。

絹屋
住所:岐阜県岐阜市神室町一丁目40
電話:058-265-8248 

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