人の強みを活かす働き方。教育と自然を掛け合わせたワークショップの実施。
柿下木材工業所には、現在パートを含む26名の従業員がいる。父親の代から長く続けている人もいれば、紹介がきっかけで引き入れた人もいて、年齢も性別もさまざまだ。
会社の経営者として、仕事をするうえで大切にしていることを尋ねた。
「嘘をつかず、仲間に対して正直でいることですね。どんな仕事も、自分ひとりではできません。そういう意味では、自分たちがどういう会社であるのか、どんなものを作っていて何を目指しているかを共有しておくことは大切だと思います。
それから、仲間を信頼して、今できることの“少し上”をお願いすること。現状維持では成長しませんし、その人のキャパ以上のものをいきなり任せるのもよくない。一人ひとりをよく見て、今やれていることより少し上の仕事を任せられるような声かけはしています。
そして、そのための環境づくりも大事にしています。どんな個性を持つ人でも、どんな強みがある人でも、それを発揮できるような場所を与えることですね。
たとえば、職人さんの中にも、自分で広範囲をやりたい人、一部だけをしっかりこだわってやりたい人など、いろいろな人がいます。みんなが楽しんでものづくりをしてもらえることを大事にしています」
柿下木材工業所には、知的障害を持つ人やこだわりの強い人なども働いている。「なんだったらできるのか」ではなく「この人の強みを活かすにはどんな仕事を与えたらいいか」という目線で、柿下さんは人と仕事を見ているのだ。
また、同社には子育て中の女性もいるが、子どもの学校行事や急な体調不良による欠勤や早退も、気兼ねしなくていいという。そのようなことが言い出しにくい風潮の会社がある中で、柿下木材工業所で働く女性たちがどれほど助かっているかは想像に難くない。
「だって、困ったらお互い様でしょう」と柿下さんは笑う。幼い頃から地域に根ざし、家族と仕事が同じ環境にあった柿下さんにとっては、大人も子どもも「お互い様」が普通だった。誰の子どもでも泣いていればどこかの大人が面倒を見たし、誰かの困りごとにはみんなで知恵や力を出し合って解決してきた。「自分さえ良ければいい」や「あれだけやってあげたのに」という人は、少なくとも柿下さんの周りにはいなかったのだ。
そして経営者となった現在も、誰に言われるでもなく、自身が経験してきた「当たり前」も含めて「楽しいものづくりの現場」の実現をしているだけなのだ。
「子どもたちを見ていても、今はいろいろな子がいますからね。学校に行けない子も、真面目すぎたり、優しすぎたりで潰れてしまうとか。そういう子でも、木という素材に触れることでなにかきっかけを与えられたり、強みを活かせたりするかもしれないし、そこからなにか”新結合”が起こるかもしれませんよね」
柿下木材工業所では、高山の事業者と共同した学生向けのワークショップや、工業高校での出張授業などを積極的に実施している。素材の特性を知り、デザインの設計からプロダクトアウトするところまでを一貫して体験できるということもあり、学生たちは毎回目を輝かせて取り組んでいるそうだ。柿下さんに「こんな発想、大人ではなかなかないですよ」と見せていただいた画像の数々には、独創的なアイデアのランプを手に満足げな笑顔を見せる学生たちがたくさん写っていた。
考えて実際に手を動かすというアナログな作業だからこそ、「ここにこだわって表現した」「こういう使い道ができるように工夫した」と、自分の思いを言語化することの一助にもなっているのかもしれない。
他にも柿下さんは、高山の木工事業者らからなる「高山あすなろ会」の仲間達と、業者から端材を集めて夏休みの工作用に無料配布をおこなったり、市内の子どもたちが作った作品展示会を開催したり、実際に山に入って山師の活動を見学するツアーを実施したりといった活動を、無償で続けている。子どものために一生懸命になる大人がいるということは、どれほど素晴らしく、頼もしいことだろうか。
そうした子どもが成長し、高山のために働くようになることも、また自然な流れのように思えてならない。
「楽しくものづくりをしてほしい、というのが柿下木材工業所の代表としての僕の思いです。『MOARE』を見ていただいてもわかるように、自分たちはこういう感性で、こういう目的があってものづくりをしている、ということをいつでもしっかりと言葉で言えるようにしたいですね」
人と技術と素材が織りなす「MOARE」の照明。
それはきっと、暮らしに木の温もりをもたらすだけでなく、地域の子どもたちや産業、働き方など、さまざまなものをあまねく照らしているのかもしれない。
<柿下木材工業所>
岐阜県高山市下切町1683
https://www.kakishita.co.jp/index.html
<MOAREはこちらから>
https://moare.jp/
コメント