生粋人

<第2回>ピンチの時こそ、チャンスはある。僕が”変化”を楽しむ理由。「様時」石川哲也

ピンチはチャンスに。行動を起こして増える「仲間」。

石川さんは基本的に「ピンチはチャンス」であるという考え方だという。
よく聞く言葉だが、人間、本当に窮地に追い込まれたときに「チャンス到来!」などと悠長に感じられないものだ。石川さんがその思考に至ったのには、理由と段階があった。

「デザイン会社で働いていた頃のことですが、実家の親から連絡があって。実家で飼っていた猫のナナちゃんが、亡くなったって。交通事故だったそうです。僕はもう、それを聞いたとき、つらくてたまらなくて。僕、今でもそうですが、昔から猫が大好きで。ナナちゃんのことも溺愛していました。でもしばらくなにもする気が起きなくて……悲しみに耐えられない日々を過ごしていました」

しかしその悲壮の底辺で、石川さんはふと自分を客観視するようになる。今の自分を感情の起伏で表すと、どん底。つまり、グラフで表すと矢印は下向きに伸びている状態だ。では逆に、楽しいときはどうだろう。グラフは上に向かって伸びていく。
この矢印だけに着目するならば、感情の方向は違えど、長さは同じなのではないだろうか。

だったら、この熱量をなにかに生かさないともったいない!そんなふうに思ったんです。ナナちゃんが突然死んでしまってこんなにも悲しい。けれど、この悲しみを逆方向に向けることで、それはなにかを始めるエネルギーになるんじゃないかと

まるでグラフの上下を180度ひっくり返すように視点を変えた石川さんは、その日からみるみるうちに「なにかをやりたい、生み出したい」と思うようになった。「ナナちゃんの死があったから、これができたんだ」。そう思うと、なんでもやれる気がした。その勢いで会社の同僚に「今日の仕事終わりに、路上でなにかやります!」と宣言をした。

そこで時期を同じくする出来事が、連載第1回で登場した「スパイダーマン」である。

なんと彼は、よなよなスパイダーマンに扮してフリーキスの活動を始めたのだ。

名古屋駅や栄、花見で賑わう公園。人通りの多い場所をあえて選んで「FREE KISS」の看板を掲げた。細部にまでやたらと完成度の高いスーツに身を包んだ彼は、本物のスパイダーマンさながらに木にしがみつき、マスクを鼻の下まで捲り上げ、形のいい唇をかわいらしくチュンと突き出して待った。「チュパイダーマン」である。

「チューしてくれる人、結構いるんですよね(笑)。当時は今みたいにネットもそれほど普及していないし、動画にとって投稿することも、SNSで拡散して人気になりたいということもなかったので、僕は正真正銘、自分がやりたくてやっていたんです。そりゃ楽しかったですよ。悲しいことがあったおかげで、こんなに楽しいことができる自分になれたんですから。だからそれ以降、僕にとってピンチはチャンス。もちろんピンチのそのときは、あたふたしたり落ちこんだり、悲しんだりもしますが、それは楽しいことへつながるエネルギーだとわかればこっちのもの。『待ってました!』くらいに思えるようになりますよ」

そんな彼のもとに、キーパーソンとなる人物が現れる。
その人物は、てらてらとした光沢を放つ金色の全身タイツに身を包み、頭にはしゃちほこのかぶりものをしていた。
スパイダーマンとしゃちほこ男の、忘れられない夜が始まろうとしていた。

<第3回>へ続く

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