優れた耐久性とデザイン性。一枚に宿る職人技。
常滑市といえば、焼き物の街。その起源は古く、平安時代にまでさかのぼるのだとか。
この地で長年タイル製造を営む老舗メーカー「株式会社アカイタイル」があります。その技術と製法を生かし、住宅や公共施設だけでなく、東京駅駅舎など有名建築物の復元にも携わっています。
今回は、取締役社長の赤井祐仁さんに、知られざるタイルの魅力やその製法について、お話を伺いました。
まずご案内いただいた部屋には、色とりどりのタイルがびっしり!タイルと一言に言っても、用途や使用する場所によって作り方も色の出し方も異なるのだそうです。
水回りや外壁、床など、さまざまな場所に使われているタイル。しかし話を聞くと、ここ30~40年でその用途にも変化があったようです。
「生活様式の変化にともない、これまで必要とされてきた場所には使われなくなってきたという感じはありますね。トイレも和式から洋式になり、床や壁にタイルを使わない家が増えました。お風呂場もユニットバスが一般的な現在では、タイルを貼ることも少なくなりました。外壁でいえば、最近ではガラス張りになっている高層ビルをよく見かけますよね。それこそ昔は30階建てのビルでも全面タイルを貼ったものですよ。内装も外装も激変した、というのが率直な感想ですね」
特にバブル期以降は市場も1/5ほどになり、タイルメーカーや職人そのものの数も大幅に減少したといいます。さらに中国から安いタイルが輸入されるようになると、大量に使用するような床などでは広く用いられはじめました。
そんな中でも、「アカイタイル」さんが市場に必要とされている“強み”とはどんなところにあるのでしょうか。
「大量生産の輸入品ではできない、特殊なものを生産しています。例えば、専用の金型やプレス機がないと作れないようなタイルですね。金型から新規でデザインを起こしているんです。手間もかかるし、職人の技術も必要になる。一朝一夕でできることではないので、こういった製品を続けるところもこのあたりではうちだけになりました」
ご覧いただいてもわかるように、型の押し方だけでも豊富なバリエーションがあります。例えばこのようなタイルは、主に大きなビルや体育館、公共施設などの大型施設の外壁に使われるのだそうです。立体感や奥行き感、タイルならではのナチュラルさが、幅広い世代の集まる場にはぴったりですね。
次に、不規則な割れ面が面白さを生み出す「テッセラ」という技術に注目してみます。通常、タイルに模様を付ける場合は金型を押し付けて作るのが一般的ですが、テッセラはあらかじめ2枚分の厚みのあるタイルをつくっておき、刃を入れて真ん中で割っているのだそうです。一つひとつ異なる見た目、色合い、手触りができあがります。均一なものができる金型成形とは違った魅力がありますね。
「アカイタイル」さんでは、他にも自社技術を生かしたオリジナル製品が豊富にそろっています。ずらりと並んだサンプルを見ているだけでも、随所に趣向が凝らされているのがわかります。
「日の当たる角度によって影ができるものや、厚みを変えて表情を演出できるもの。どの位置からどう見えるか、人の手がどう触れるかということにも意識して、一枚一枚職人が手掛けています」
冒頭で述べた、東京駅駅舎に使用したタイルも、手触りや色合いには特にこだわったのだそうです。復元に際し「重要文化財としてオリジナルに近いものを」という相談があり、そこから足掛けなんと10年。その間、製法から圧縮の仕方、焼き方にいたるまで何度も試行錯誤したのだといいます。
「アカイタイル」さんでは特に、このような歴史的建造物の復元や補修の依頼を受けることが多いそうで、東京駅を始め両国国技館や名古屋の揚輝荘、イタリアのサンフランチェスコ教会などのタイルを復元してきた実績も。東京中央郵便局の復元に至っては、20種類以上の金型からつくり出した50種類以上もの異なるタイルを使用したというから驚きです。
現在はこのプロジェクトを「復元屋」と名付け、県内外問わずさまざまな建築物の復元・補修用タイルを作っています。
長年タイル一筋で培ってきたノウハウと、熟練の職人の腕だからこそなせる技なのですね。
そしてなんと今回、赤井社長のご厚意で特別にタイル製造の工場を見せていただけることに!
(通常は、一般見学は行っておりません。)
こちらが工場内。操業当初は200坪だった敷地も、移転を重ねるうちに規模を拡大し、現在は約2800坪もの敷地に。主に2つの工場が稼働しています。
大きな袋から、ホースを通ってタイルの原料が流れてきます。型に押し込まれたり圧縮されて形になったタイルの素は、釉薬(うわぐすり)を塗布され、焼かれるための下準備を済ませます。
こちらは、タイルを焼くための板(サヤ)。この隙間に、タイルが置かれています。タイルどうしを保護する役割もあるのだそうです。
しばらく乾燥させたら、いよいよ窯の中へ。
台車に積まれたタイルが移動しながら2日かけてじっくりと焼かれていきます。温度はなんと最高で1200℃以上。焼成行程では24時間休むことなく窯が動き続けるため、昼夜交代で見張っているそうです。
窯に取り付けられた丸い穴から、ほんの少し中の様子が見えますね。窯の前の方と後ろの方では温度が違うので、この炎の色も違って見えるんですよ。
そしてどの行程でも欠かせないのは、人の手と目。ほんの少しのズレや色ムラ、形の違いも見極めます。
タイル一枚一枚が、厳しいチェックを経て世の中に出ているのですね。
今後、私たちの生活にタイルはどうかかわってくるのでしょうか?赤井社長に、タイルの持つ魅力と今後の展望についてお聞きしました。
「私は、タイルの持つ質感が好きなんです。焼き物独特の素朴な味わいですとか、釉薬による色の変化ですとか。壁紙や床材など、さまざまな材質・機能のものが次々と出てきていますが、タイルほどいろいろな質感や色を表現できるものはないと思っています。加えて、耐久性にも優れている。何十万人と訪れる施設の床でも、何十年と現存する建物の壁でも、しっかりもってくれます。
さらに今は技術も進歩しているので、インクジェット対応のタイルでは木目調、布目調のものまで再現できるんです。設計やデザインで遊び心があるところも、タイルの魅力ですね」
近年になり、戸建ての住宅の外壁にタイルを選ぶ人が増えているのだとか。生産だけでなく施工にも技術が必要なタイルだからこそ、安心して用いることができるのですね。
今後は、インテリア市場にも視野を広げていくと話す赤井社長。「ステイホームやリモートワークで自宅にいる時間を、タイルで有意義に過ごせる方法があれば」と笑顔をのぞかせました。
タイルの魅力と、その一枚一枚に込められた技術者たちのこだわりと情熱をたっぷりと知ることができました。
赤井社長、貴重なお時間をいただきましてありがとうございました!
株式会社アカイタイル
愛知県常滑市金山字北大根山1-9
0569-42-3006
https://www.akaitile.co.jp/
「復元屋」
https://www.fukugenya.jp/
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