生粋人

<第1回>墓、人、こころ。“ひとりじゃない”と気づく場所。——お墓のおざわや・小澤敦司

私たちにとってお墓とは、どんなものだろうか。
なぜお墓参りをするのだろうか。

“お墓参り”というテーマに、ずっと興味があった。だが、素材を前にどう料理しようか思い倦ねる料理人のように、「伝えたいこと」と「伝え方」がわからず、長いこと腕を拱いていた。意を決して『お墓のおざわや』の店主・小澤敦司さんに連絡を取ったのは、墓石店にとって書き入れ時である7月のある日のことだった。

「暮らしとお墓参り、という切り口で取材をさせてほしい」というこちらの拙い要望にもかかわらず、小澤さんは真摯に耳を傾けてくれ、忙しい合間を縫って時間を作ってくださった。

小澤さんによれば、お墓は「ひとりじゃない、と気づく場所」だという。
「お墓って管理も維持も大変だし、面倒だな、と消極的な人が多いですよね。それをダメだとか、罰当たりだとか言うつもりはなくて。そもそもお墓ってなに?なんのためにお墓参りをするの?って考えてもらえたら、きっとお墓に対する価値観も変わると思うんです」

私たちはお墓のことを、なにも知りはしないのかもしれない。

些細なきっかけで“墓づくり”の世界に。墓石店店主が思う墓参りの魅力。

 先に、小澤さんの来歴について触れておきたい。高校を出てから、オートバイのレースに打ち込んでいたという小澤さん。さまざまなアルバイトを経験して資金を貯めていたが、もっと割のいい職はないかと悩んでいたところ、家業で石材店を営む友人から「うちでバイトしたらいいよ」と声をかけられ、これまで全くの未経験だった業種で働くことになった。
 当時はバブル景気のさなか。小澤さんいわく、いい石でいい場所にお墓を建てたいという客が店の外に行列をなすほどの盛況ぶりだったこともあり、業績は右肩上がりだった。

 「セメントを捏ねるとか、石材を運ぶとか、墓地で基礎を整えて墓石を組み付けるとか、そういう仕事を手伝っていました。最初は資金調達で始めた仕事だったとはいえ、昔からお墓という場所がなんとなく好きだったし、この仕事にもやりがいを感じ始めていて。途中からその店で正社員として雇ってもらうまでになりました」

 その後は、自分の店を名古屋市熱田区に構えた。2009年には現在の名東区に移転し、オーダーメイドで墓石の受注生産を行っている。
 故人はどんな方だったのか。どんなデザインにしたいか。どこにどのような文字を入れたいか……。小澤さんは、遺された家族にヒアリングをし、それをもとに墓石の図面をひく。提携している石職人がそれをパーツごとに造って送り返し、小澤さんは墓地で墓を建てる。同じ墓は二つとしてない。

 そんな小澤さんが一番うれしい瞬間。それは、お墓の前で楽しそうにお参りをしている家族を見るときだという。

 「おじいちゃん、おばあちゃんから小さなお孫さんまで揃っていて、キャッキャと走り回ったり、楽しそうにお掃除のお手伝いをしたり。お墓の前で家族がみんなでいる様子を見るのがとてもうれしいんです。よく、お墓は面倒だけどご先祖を守らなきゃとか、維持が大変だけど仕方なくやっているとか、消極的なお話を聞きますが……実はもっと簡単に考えていいものなんです。家族揃って、お墓参りをするだけ。それだけでいいと、僕は思うんです。世代を超えて集まっているその姿こそが、もうご先祖とつながっているんですから」

小澤さんの店舗にはさまざまなテーマの書籍が並ぶ。
仏教やお墓に造詣が深くなくとも、思わず手に取りたくなるものばかりだ。

 孫、子、親と続く“世代の糸”。その糸の先が、お墓の下に続いているだけなのだ。そしてその糸は途切れることなく、孫の手からその次の世代へ続いていく。見えない先祖を無理して思わずとも、家族で楽しくお墓参りをすることが、先祖を思うことになるのだと、小澤さんは言う。そして、もっとお墓が身近に感じられるような話を続けてくれた。

第2回>へ続く

コメント

この記事へのコメントはありません。

RELATED

PAGE TOP