歴史と思いを胸に、前へ。
三浦太鼓店は、江戸時代から150年以上続くお店。
六代目・三浦彌市の三浦和也さんには、「MEETS ME」のインタビューを始め、味噌六祭りや冊子づくりなど、常々懇意にお付き合いをさせていただいております。
そんな三浦太鼓店さんが、この度新店舗へと移転を決められました。
旧店舗では、主に皮の加工や張り、梱包など。
そして彼らが「秘密基地」と呼ぶもう一つの作業場では、太鼓の胴の製作や塗装、太鼓カバーの製作などが行われていました。
これらの場所を一元化し、作業を効率化するため。
地域とのかかわりを持てる場を提供するため。
そして、さらに未来へとつながる「音」を作るため。
彼らは今、この場を離れます。
がらんとした作業場。
彼らの笑い声も、にぎやかな作業の音も、もうなにも聞こえません。
ほんのりと漂う秋田杉の香りだけが、かろうじてまだ名残を感じさせます。
しかしいくばくもなく、香りも消えていってしまうでしょう。
ヒト・モノ・コトを失って、空になった2つの建物だけが、現在ぽつんと残されています。
しかし、彼らは“建物以外”のものは、ひとつ残らず全て新しい店舗へ持って行きました。
太鼓づくりの材料や機材だけではありません。
先人たちから受け継いだ伝統や技術、そして、思い。
目には見えない大きなものも一緒に、新店舗に運び込みました。
「自分も、伝統を守り、先人の遺物を感じ、本物を伝えられる太鼓を作りたい。そしてその“活きた音”を後世に伝えたい 」。
インタビューで、そう思いを述べていた三浦さん。
決して目には見えないもの。
しかし、それらをなしに、彼らの新しい時代は始まらないのです。
悲しいけれど、ここでできることは、もう終わり。
そして終わったあとは、また始まっていくのです。
新しい場所で、古くからの思いを胸に。
彼らと、彼らの先祖や師匠がつくり上げてきた、
決して消えることはない、強く美しい思いを、
太鼓の音にのせてつないでいくのです。
彼らが作るのは、「思いをつなぐ太鼓」。
時代が変わっても、場所が変わっても、人が変わっても。
思いは変わらない。
それだけは、変わらないのですから。
六代目・三浦彌市さん。
並びに、三浦太鼓店の皆様。
新店舗移転のご英断、心よりお慶び申し上げます。
我々も、写真や文章で、思いをつないでいけるよう、精進して参ります。
貴店のますますのご発展とご清栄を祈念いたしまして、
結びとさせていただきます。
text:光田さやか
photo:荻野哲生
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