生粋人

<最終回>音と人の揺らぎの中で。僕の綴る“ストーリー”。――「株式会社SW」代表・西澤裕郎

音楽だけにとどまらず、アートな活動全般を応援する媒体に。

N社を退社後、音楽記者へ導いてくれた「OTOTOY」でも記事を書き、StoryWriterの編集も行っていた。ライブの配信や録音、ゲリラライブの企画など、アーティストたちの中に入ることで書くこと以外の楽しさも知った。
多忙だったが、充実していたという。
水曜日のカンパネラSuchmos、あいみょん。
今でこそ有名なアーティストの面々だが、西澤さんは彼らにいち早く目を付けた。

【水曜日のカンパネラ】
https://ototoy.jp/feature/index.php/20130729
【Suchmos】
https://ototoy.jp/feature/2015011905
【あいみょん。】
https://ototoy.jp/feature/2015030405

ブレイクするアーティストを、どこよりも早く発掘するコツは?聞いてみた。

「 うーん。最初は直感で、おもしろそうだから取材しようって。あとは話してみて、って感じです。何かしらを持っている子は、ほおっておいても協力者が現れて世の中に知られていく。 野心であったり、諦めない前向きさであったり、支えてくれるたくさんのファンだったり。そういう子たちは、話しているとこっちが応援したくなるんですよね。最初は見向きもされていなかったインディーズのアーティストたちが、どんどんメジャーなシーンに出ていくのを見るのは爽快です」

2017年になり、西澤さんは株式会社SWを設立する。きっかけを、「35歳を目前にして、自分の嗅覚が鈍くなることが、足が重くなることが怖かったから」と話した。
今後「StoryWriter」は、アーティストだけでなく作家やイラストレーターなど、“取り上げづらいけれどおもしろいもの”を発掘する、カルチュアルな媒体としてありたいという。

隠したいものにフタをする時代から、今はそれを表現できる時代になっている。それが認められる世の中なんです。そしてありがたいことに、今年新入社員も来てくれたので。ノウハウは自分が、クリエイティブは若い子が。そんなふうに会社を作っていけたらいいですね。僕自身も若い子と話すことで、嗅覚や足取りを保っていたいと思っています」

ずっとくすぶっていた種火。
チリチリと胸を焦がし続けたが、時代と、人と、音楽の揺らぎの中で、
今ではそれが大きな情熱の炎にまでなった。

しかし彼のスタンスは10年ほど前から変わらない。
それはN社にいたときに、社長から言われた言葉がもとになっているという。
大小関わらず、身の回りで気になったことは突っ込んでいって調べなさい。編集の仕事をしているということは、どんな小さなことにでも興味を示し、関心を持つということ。たとえば道の途中に救急車が止まっていたら、今そこで何が起こっているかを知ろうとする。それくらい、事実を求めていけ」。

私にもぐさりと刺さった言葉だった。西澤さんが10年来、心にとどめているのがよくわかる。私も“物書き”の端くれならば、常にそういうスタンスでありたいと思った。

何を切り取るか。僕がいつも重要にしているのはそこです。どんなものでも、認知されている部分だけで構成されてはいない。そこには、必ず“ストーリー”がある。僕はそれを、書き続けたい

夕刻。彼は取材を終えた私たちを送ると、渋谷の人込みへと紛れていった。
向かうのは、仲間の待つ事務所か、ライブハウスか、それともまだ見ぬどこかか。

そんな彼もまた、彼の“ストーリー”を背負って、今日という日を生きている。

Text:光田さやか
Photo:荻野哲生

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