「ウィズコロナ」「アフターコロナ」という言葉ももはや認知され、飽和さえしつつある昨今。文化や経済、ライフスタイルや価値観が一変してしまうこんな時代を、いったい誰が予想していただろうか。

しかし、この「予想」を常に確実なものとして捉え、先んじて世の中に役立つモノを提供していくことを生業としている人物がいる。名古屋で製造業向けIoTを主な業務としているスタートアップ企業「ピノベーション」の代表・鳥羽伸嘉さんだ。

彼は、アイデアという刀で世を改善する「令和のサムライ」のようだ。

世に起きている―あるいは起こるであろう問題を眼光鋭く見据え、想像し、挑戦を続けているからだ。そんな彼に、この混沌としたコロナ時代を生き抜くためのスタートアップ企業の在り方や、自身の考えを尋ねた。

スタートアップ企業の成長を阻むコロナ。動くタイミングのカギとは。

旧那古野小学校をリノベーションして作られた「なごのキャンパス」。多種多様な業種の企業が入り、新たな熱量を生み出し続ける場だ。ここにオフィスを構える「ピノベーション株式会社」は、顧客の抱える問題の本質を見出し、そこにアイデアをもって新しい価値観を投入しているスタートアップ企業だ。
これまでも、機械に取り付けて振動を感知しその稼働状況を把握するIoT機器「countIT(カウンティット)」や、地元の町工場や病院と連携し、双方の困りごとを解決したオリジナルフェイスシールド「Sarah」などを開発、リリースしてきた。

スタートアップ企業は、企業からの投資を受けて成り立つ企業形態をとっているが、コロナの情勢を受けて現状にどのような変化があったのだろうか。

正直なところ、コロナでスタートアップ企業全般としては冷え込んだのではないでしょうか。2~3月くらいから投資自体がしぶられはじめ、立ち行かなくなったスタートアップ企業もいくつもあると思います。結局は、世間が『こんな状況でも存続できている大企業ってやっぱりすごいんだな』という認識になったからでしょうね。
ビフォーコロナでいえば、大企業はもっと新しいことにお金を使うべきだとか言われていて。だから、オープンイノベーションということでスタートアップやベンチャー企業に投資して新たな事業にするということをしていたんです。しかしコロナが来て、そんな状況に手のひら返しが起こりました。何が起こるかわからない、何が起きても現金を持っていれば強いはずだ、やっぱり大企業だな、という風潮になってくるんですよ。それで投資家たちも、もともとバブル要素の強かったスタートアップ企業への投資を渋ったわけです

それに伴い、株式上場企業も減少。“出し渋り”の状態では株の価格が下がってしまい、自社の持ち株を削ってまで資金繰りを行うことにリスクを覚える企業が増えるためだと鳥羽さんは言う。

今でこそ、スタートアップ企業に対する投資家の動きもぼちぼちと復活しつつありますが、株式上場する企業はリーマンショック以降くらいに落ち込むのではないかと予想しています。
でも、株式上場って準備にものすごく時間がかかるんですよ。書類作成や社内体制の統制などを整えなくてはなりません。さあ準備万端!といっても、このコロナの荒波を乗り越えられるわけじゃない。知り合いの中にも、上場延期を決めたり、中止したりする人は大勢いました。
むしろ、コロナをチャンスととらえている経営者は強いかもしれませんね。株式上場をゴールと捉えず、コロナをきっかけに新たなゴール設定をし始めている。あるいは現在投資を受けている企業は、今後の事業をどう舵取りしていくかを考え始めている。現在のスタートアップ業界はそんなところだと思います」

では、先行き不透明な情勢の中で、スタートアップ企業はそれぞれどのように決断のタイミングを見計らうのだろうか。

出方を伺っているとダメになってしまう気がしますね。ヒト・モノ・カネのカードをいかに切っていくか。人員削減なのか、はたまた事業転換なのか、資金調達の方法を変えるのか…。選択肢としてはいろいろと考えられると思っています」

とはいえ、幸いにして名古屋や大阪、東京、福岡などの主要都市は「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」として内閣府からの認定を受けている。支援のために莫大な投資を呼び込む流れもあり、スタートアップ企業としては追い風の面であることも否定できない。そこまで悲観的にならなくてもまだいくらでも手の打ちようがある、というのが鳥羽さんの見解だ。
ここで、自身の「ピノベーション」の立ち回りについて伺ってみる。

「僕自身、2016年に中小企業として独立し、その後IoT事業へ参画、2019年に投資を受けたことでスタートアップ企業として経営を始めているんです。なのでマインドセットとしては、投資を一気に食いつぶすのではなく、手元にあるお米を薄めて薄めて、重湯のようにして食いつなぐことは苦ではないんですよ(笑)。売上は他の事業でも立たせているし、銀行からの借り入れもできているので、恵まれている環境ではあると思います。
なので僕の勝手な意見ですが、これからのスタートアップ企業は、今までの定義のように製品を大きく世に出して大きく現金化するよりも、細かな黒字をいくつも出していった方がいいような気がしています。ズンとしゃがみこんで反動をつけて大きくジャンプするより、ぴょんぴょんと小さくジャンプを繰り返すという感覚ですね。それがもしかしたら新たなスタートアップ企業の定義にもなるのかもしれません。100億を1回より、1億を100回。そんな企業があってもいいのかなと

その発言を補足するように鳥羽さんは続ける。

「結局、コロナの影響でつぶれる会社はダメな会社、生き残る会社はいい会社、なんていう流れになっちゃったらどうしようもないじゃないですか。せっかく日本が変われるチャンスなのに

例えば、テレワーク。非常事態宣言が出された際は在宅勤務や時差通勤などが推奨されていたのに、解除された途端に名古屋はまた満員電車に逆戻り。学生の9月入学の話もあったがそれも流れてしまっている。
アフターコロナの日本を、私たちは「よりよく変える」のではなく「もとに戻す」選択をしているのではないだろうか。

「コロナが起きたとき、正直なところ『大富豪』でいうところの『革命』が来たなと思ったんですよ。底辺にいた人たちが一気に上がれるような情勢になっていくのではないかと思っていたんです。普段日の目を見ないようなスタートアップ企業のほうが初動が早かったり、大企業ではやれないようなことを中小企業が柔軟に始めたり。そんな社会が来るんじゃないかと、一瞬思っていたんですが。やっぱり日本人は、安定を求めてしまうんだなと

安定を求める日本人。そこにはどんな原因があると考えているのだろうか。また、その原因に対する、スタートアップ企業のふるまいとは。

「原因か…そうですね。高齢化社会が大きいんじゃないかなあ。人も社会も高齢化して動けなくなっているんですよ。動けなくなるということは、交われなくなる。本来だったらそこでテクノロジーの力を使って解決すればいいんですよ。だっておじいちゃんやおばあちゃんがzoomで井戸端会議やったっていいわけで。でもどうやらそんな社会は来そうにない。テクノロジーが浸透していないんです。交わらないと、新しいコトが生まれないんですよ。今、日本の人口の1/3が高齢者と言われている日本で、それらの人々が動かないから社会の流動性もなくなる。滅びの一途をたどるわけです」

阻止するためには、新しいテクノロジーとそれを行動に移す人が必要になる。そしてそれを担うのがスタートアップなのではないかというのが鳥羽さんの臆見だ。そして「子どもや孫の世代にどんな日本を残したいのか考えなくてはならない」と付言した。

人が交わらなければ行動が起きない。行動が起きなければ熱量が生まれない。細胞が活性化して人間が成長していくのと同じように、人間同士が動くことで日本という国全体が活性化するのだ。

僕自身は、リアルに対面で会ったり話したりすることが好きなんですよ。以前、VRの事業にトライしたことがあって。例えば工場の写真を撮ってそれをVRに取り込み、会社説明会で流す。そうすると、実際に現地まで見学に行かなくても様子が手に取るようにわかりますよね。それと同じように、これを住宅展示場でも展開できないかと考えたんです。とある展示場の社長にご意見をいただく機会を作っていただいたんですが、そのときに一言『鳥羽君、このソファを触ってみなさい』と言われまして

鳥羽さんは言われるがまま、おもむろにソファに手を伸ばした。その様子を見て社長は続けてこう言ったという。「この気持ちよさが、VRで伝わるかね?」。

このときの経験から、鳥羽さんは、リアルでなくてはいけない部分と、ヴァーチャルでなくてはいけない部分に、明確な差があると感じたそうだ。AIやテクノロジーがいくら進歩したところで、マッサージやネイルサロン、介護や風俗など人のぬくもりに重きを置いた「ぬくもりビジネス」は存続していく。両者には明確な棲み分けがあるのだ。

でも、ぬくもりを伝えるためにテクノロジーが必要になってくる部分もあるかもしれない。コロナの影響で人と人とが会わなくなっている今でも、「ぬくもりビジネス」は社会においては不可欠なのですから。そんな課題を克服するためのテクノロジーを提供していけたらと思っています」

日本を俯瞰で観察し、行く末を案じる鳥羽さん。こうなると注目せざるを得ないのは、彼の「問題の捉え方」と「アイデアの出どころ」だ。彼の振りかざす刀の切れ味を、じっくりと観察してみたいと思う。

<後編へ続く>

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