CREW

意志は音に載せて。BASSで奏でる“ART”。――ソロアートベーシスト・ONIORN

6月某日。曇天から光の漏れる午後のことだった。スタイリッシュで開放的なカフェに響く、切ない重低音。ソロアートベーシスト・ONIORN(オニオン)さんがいた。

ベース単独での演奏スタイル、とは少し珍しいかもしれない。自身の横に備えたMacからミックスされたBGMを流し、それに合わせてベースを弾く。時折歌も交えながら、しっとりと、しかしロックなナンバーが続く。MC中は、僕は口下手だから、と言ってはにかんでいたのが印象的だった。
実に独特だ。
少なくとも、同様のアーティストを、私は知らない。

ロックが常に側にあった学生時代。

演奏後の彼に話を聞いた。このスタイルがどのようにして確立されたのか知りたかった。先ほどのセンシティブなイメージとは違い、柔和な雰囲気を纏っていた。

「もともと小学校のクラブ活動でトランペットをやっていたこともあり、音楽は好きだったんですよ。中学に入ったころかな、Dragon Ashにドはまりして。親もロック音楽が好きだったこともあって、家の中では常に音楽が流れていました(笑)。でもこのころはまだ、ベースという楽器の存在は知らなかったですね

中学2年のある日、Dragon Ashのライブ映像を見ていて気づいた。「この楽器、あんなに弾いてるのに音があんまり聴こえないぞ?なんでだ?」。それが、ベースの第一印象だった。
それからというもの、ギタリストだったONIORNさんはベースにも興味を持った。自分で演奏してみたら、バンドの中でも意外と目立つことが分かった。
ボーカルのような主役っぷりも、
ギターのような華も、
ドラムのような派手さもないが、
ベースにはバンドを“影であやつる”なにかがあると思った。

2年ほど前、所属していたバンドから独立し、単独での活動を開始。
「ソロアートベーシスト」を名乗った。
取材したこの日は昼間のカフェだったこともあり、ややライトなセットリストにしたそうだが、本来はバーやパブなどでインストゥルメンタルを中心に演奏しているそうだ。
自身の曲を一言で表すと?と尋ねると、しばし考えたのち「酒に合う曲、ですかね」と言ったのには、なるほどと妙に納得した。

ライブや路上パフォーマンスでは、映像作家や造形作家とコラボしている。
それらと馴染み、互いに引き立て合ってアートを作り上げられるのは、ベースだからこそできることだと思った。
そしてそれがいつしか、彼のスタイルになったのだった。

若者たちにアートでメッセージを発信。

これまでもさまざまな場所で、個性的なアーティストらとライブを行ってきた彼だが、この夏は新たなイベントを企画しているという。その背景を聞いた。

「2年前、新幹線に乗っているときに突然『Jアラート』が鳴り響いたんです。その時の僕は、正直世の中でなにが起こっているのかわかりませんでした。あとで調べたら、戦争になりそうだと…。それまでは戦争なんて、歴史の中だけのことだと思っていた。けれど、決して他人事ではない。『戦争について知らないのは恐ろしいんだ』と思うようになりました

Jアラート( 全国瞬時警報システム )。ちょうど、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したときのことだ。ONIORNさんは、いかに自分たちが平和ボケしているかを思い知らされたという。

反戦、などと大きいことを言うつもりはない。
ただ、今ある平和を大切にしたい。
その思いが彼を突き動かした。

手始めに彼は歴史を学んだ。
そして昨年「戦争」をテーマにしたコンセプチュアライズド・アルバム、「Zanado la vinusante」をリリース。
2曲目にはヒトラーの名言を用いているという。3曲目、4曲目と聴いていくにつれて、戦争がはじまり、次第に激化していく様子が表現されている。

そして6曲目の「-Finalize-」。
玉音放送をリミックスした。

このアルバムを元に、今年8月15日のライブ「 #OUR815 MOVEMENT ’74 -ACT ZERO- 」を計画したのだという。このイベントのネーミングに託された思いとは。

「戦争を語るつもりも、説教じみたメッセージを込めるつもりもありません。それより、このイベントをきっかけに自分で調べてもらえたらうれしいです。『8月15日って何の日?74ってなんの数字?』というように。僕も偉そうなこと言えませんから。演奏は自分で。イベントはみんなで。この場に集った僕たちみんなで、平和について考える。そういう意味で、『OUR(私たちの)』にしたんです

イベントのターゲット層は、戦争への関心が薄いとされる10~20代の若者たち。
しかし同時に、戦争を知る70歳以上の年配の人にも興味を持ってもらえたらと話す。

「戦争を知らない僕たちが考える“平和”。当時を知る人からの意見も聞けたらいいなと。会場の千草文化小劇場は、円形のステージにオールシッティング。『#OUR815 MOVOMENT ’74-ACT ZERO-』は、ライブペインティングや演劇と一緒につくり上げる、いわば“アート”の一種です。壮大な映画を観ているかのような気持ちになってもらえたらうれしいです。この日を、戦争が終わった日ではなく、一年間戦争がなかったことに感謝する日として定義し、毎年続けていきたいです

意志は音に載せて。
幅広い世代で再度考えなくてはならないテーマが、この夏揺るぎないアートとなって名古屋の街を席巻する。

#our815movement’74-ACT ZERO-
会場:千種文化小劇場(ちくさ座)
(名古屋市千種区3丁目6ー10)
開催日時:2019年8月15日(木)
開場11:00・閉場14:30(予定)
チケット:前売券815円 / 当日券1,000円 (いずれも税込)
チケット購入はこちらから→ https://oniorn.thebase.in/
主催:ONIORN PROJECT
Web→https://our815movement.com/
Facebook→https://www.facebook.com/OUR815MOVEMENT/
Twitter→https://twitter.com/our815
Instagram→https://www.instagram.com/our815movement
YouTube→https://www.youtube.com/channel/UCcGjkZenSxcnK-Jj8_F4uJw

Text:光田さやか
Photo:荻野哲生

コメント

この記事へのコメントはありません。

RELATED

PAGE TOP