生粋人

<最終回>墓、人、こころ。“ひとりじゃない”と気づく場所。——お墓のおざわや・小澤敦司

変容するお墓事情。お墓をカジュアルな話題に。

 お墓そのもののスタイルも変わりつつあることをご存知だろうか。『お墓のおざわや』では、お手入れのしやすさや機能面を高めた、シンプルかつスタイリッシュなお墓のラインナップがある。お墓参りという習慣はそのままに、お墓は使いやすく様変わりしているというのだ。

 「例えば、故人や先祖の名前を刻む墓誌が取り外しやすいようになっていたり、汚れや風化を防ぐため、お墓の中心となる竿石の部分に白い塗料を施さなかったり、常に剥き出しで劣化しやすい花立をビルトインタイプにしたりと、お墓にもさまざまな工夫を凝らしています。◯◯家先祖代々、ではなく、故人の好きな漢字を彫ることもありますし、だいぶお墓での表現の自由度は高まっていますね」

凹凸が少なく、掃除がしやすいシンプルなデザインのお墓。
各部が取り外せるようになっており、細部の手入れも容易に。

 

火が消えにくく灰を拭き取りやすい線香立てと蝋燭立て。
今やお墓も、機能美を追求したプロダクトデザインの域に来ている。

 言いながら小澤さんが見せてくれたのは、蝋燭と線香を立てる台だ。溶けた蝋や線香の灰が溜まった状態で長年放置していたため、汚れがこびりついて落ちない状態になっている。こういった不便を解決するために、建築家やプロダクトデザイナーなどによる商品開発も進んでいるのだという。既存のお墓に一部手を加えて、リフォームすることも可能だそうだ。「お墓って不便なものでしょう」という諦めと落胆の声を一蹴するようなアイデアの数々が、もっとお墓参りを楽しくしてくれるに違いない。

けた蝋が金具の隙間に入り込んでしまった蝋燭立て。無理に外そうとするとネジが壊れてしまうことも。
お参りが終わったら蝋燭の火を消して持ち帰ろう。

 また、小澤さんは月に一度、店舗前の駐車場で「墓BAR」という屋台を出店している。一度聞いたら二度と忘れないウィットに富んだネーミングと、お酒好きな小澤さんの人柄もあり、客はふらりと吸い寄せられるように席に着く。

店舗前で営業する「墓BAR」には、老若男女さまざまな客が顔を覗かせる。
店舗には豊富な種類の銘酒がずらり。
こういった親しみやすさも「お墓屋さん」としては珍しい。

「僕にとって墓BARは、ただお客さんと繋がるためのツールではなくて。お墓を身近に感じてもらえたり、お墓のちょっとした悩みを相談してみようかな、って思ってもらえたりするような場所でありたいと思っています。きっとほとんどの人が、用もなく墓石屋さんに来ることなんてないですもんね(笑)。お墓のことだけじゃなく、ご先祖様のことなどもかしこまらずにカジュアルに話せたらいいですね」

 先祖の眠る土地を守る象徴である、お墓。それをきれいに整えることは、先祖への敬意を払うためだけでなく、先祖とのつながりを感じるために欠かせない大切な行為だった。そして、いつかは自分も先祖になる。そのときにつながれた“世代の糸”を途切れさせることのないよう、日頃から家族で賑やかなお墓参りを楽しみたい。

 お墓は、特別なものではない。それがわかったこの夏、お墓の前で手を合わせるという一動作ですらも、尊いものに感じられそうだ。

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