生粋人

<第2回>このコたちにできること!わたしは“プロデューサー”。――にんじんちゃん・永井千春

一本でも、にんじん。埋もれる個性にスポットライト!

野菜ソムリエとして活動する傍ら、碧南人参のPRにもいそしんでいる永井千春さん。
彼女はいったいどのようにして「人参」をブランディングしていったのだろうか。その戦略に迫ってみる。

「碧南で採れる人参は、碧南産のにんじんとして、ブランドになっています。それはとてもありがたいことです。
でも、その中にもいろいろな品種があって、見た目も味も、違うんですよ。碧南人参としてスーパーや市場で置いてもらうのは嬉しいんだけれど、品種ごとの個性にも目を向けてほしいなって」

聞けば、人参の品種それぞれに個性的な名前があるのだそうだ。
手づくりのシールを見せてもらうと、有名な「碧南鮮紅」の他に、「ひとみ」「あけみ」「ちはま」…。「クリスティーヌ」なんていう名前もあった。
「えー!こんなにかわいい名前がついてるんですね!知らなかった」。私は思わず名前のラベルと人参とを見比べる。形の特徴や、料理法などがわかりやすくかかれている。
「パソコン苦手なんですよ、指こんなんして、いつもやってます」
千春さんはそう言って、人差し指一本でキーボードをつつく仕草をして、えへへと笑った。

「このコたちは、へきなん美人としては規格には合わなかったけれど、おいしくないわけじゃないんです。なかったことになってしまうくらいなら、という思いで、このコたちを品種ごとにまとめて『えらべるにんじんちゃん』をプロデュースしました」


「碧南の人参全体を見れば、『へきなん美人』もありますし、うちでつくる人参の95%くらいもそうなのですけど、私は方向性を変えて、料理店とかマルシェとか、対面販売でこのコたちの魅力を伝えられるやり方や、実際に食べてもらえるやり方で、ブランディングしていけたらな、って
全部味見をして、全部比較をして、調理法や切り方を変えて試して。
彼女は人参1本1本と向き合い、個性を見出していったのだ。

実際に、豊田市のとあるレストランでは、彼女の人参を使って品種ごとにコースを提供したというから驚きだ。シェフ自身が人参を各種テイスティングし、「これはマリネに合う」「これはグラタン向きだ」など、一品ずつ考案したのだそうだ。
今ではレストランや料亭、カフェなどで彼女の人参が使われているという。
彼女はなおも続ける。

「だってね?さやかさん。イチゴなんてね、スーパーに入ってすぐのところに置いてありますよね?いろんな種類が。トマトだってそう。いろんな色で、いろんな品種がたくさん置かれています。
それなのに…。人参ったらありゃしないっ!野菜売り場の奥のほうにごろんごろん置かれてね。こんなに個性的でイイコたちなのにもったいない!って感じなんですよ!もう!
そりゃね、仕方ないですよ。イチゴとかと違って、人参は常備菜だし。彩りにとか、栄養をとるための野菜という感じだし。
でもでも、品種ごとに売り出すことはできると思うんです。
イチゴにできて、人参にできないことはないと思うんですっ!」

早口でそう捲くし立て、語気を荒げた彼女。人参を愛しているんだなと思った。
個性を把握して、適した場所や方法、販路で売り出す。
売れないとわかれば、すぐさま路線を変更する。
消費者の反応、販売者の意図、他の野菜の動向を、調査する。
キャッチーなユニットをつくる。
各地にファンを増やすため、積極的に周知に動く。
握手会…もとい、試食会を開く。
“今、会いに行けるアイドル”ならぬ、“今、食べに行ける人参”をつくる。

某アイドルグループのプロデューサーもびっくりの、プロデュース能力ではないだろうか?
そんな一生懸命な彼女が、私にとってはただただかわいく、
そして目を細めたくなるほどに、輝いて見えるのだった。

第3回へ続く>

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