生粋人

<最終回>“枠”からはみ出たセカイの向こうへ。オモシロ楽しい、ホンキのオトナ。永目健一郎

アイドル、ラッパー、ポイ捨てアート。続けることで生まれる“叶いグセ”の連鎖。

私立高校の教員を退職後、塾講師や予備校講師などさまざまな環境に身を置きながら、自分のありたい姿を体現してきた永目さん。現在は大阪で大学受験の予備校講師をしているが、教育の分野以外で挑戦してきたことを紹介していこうと思う。

まず、教員時代に同僚を誘ってコンパを設定したことだ。

「そんなこと?」と思う人もいるかもしれないが、永目さん曰く、これがなかなかすごいことだったらしい。

「先生って、学校という狭いコミュニティしかないから、出会いの機会がすごく少ないんですよ。だから職場結婚がほとんど。実際、僕の同僚も、『出会いがないな〜』ってずっと言っていましたし。出会いはあるかないかじゃなく、作るか作らないかでしょ!と思った僕は、先生たちに異業種とのコンパをめっちゃ設定してあげていました。僕は、ない休みを利用してボランティアの清掃活動をしたり、教員じゃない友人たちと飲み会をしたりして、なるべく目を外に向けるようにしていましたから、学校外の知り合いも多かったんですよね。
だって、日頃生徒にチャレンジしろって言っている先生たちが、『出会いがないから彼女できないな〜』とか言ってるの、単純に嫌だったんですよ。だったら自分で出会いをモノにしてみろ!指をくわえて見てるだけでいいのか!?くらいの気持ちで、かなりセッティングしていましたね

ほかにも永目さんは、堀江貴文氏の講演を聞いて起業を意識しだしたころから、時間を見つけては経営者が集まる交流会に積極的に参加した。会話をしていくなかでいろいろな仕事の情報を知ることができたため、進路指導の際に役に立ったというのだ。
さらに、ある生徒が「助産師になりたい」と言い出したときには、コンパで知り合ったという助産師の女性にその場で電話をし「ちょっと生徒が悩んでるから話してあげてくれない?」と言って繋いだというから驚きだ。
またある生徒は「バンドマンになりたい」と言うので、飲み会で仲良くなったバンドマンに電話をして、直接生徒の相談に乗ってもらったそうだ。

「そうすると、生徒がすごく喜ぶんですよね。そりゃそうですよね!憧れの職業の人と話ができるんですから。でも、これもそういう引き出しがないとできなかったことだなって。それでその引き出しは、人との出会いでしか培えない。だからやっぱり、広い世界へ飛び込んでいくことは大事なんだなと思いました

2018年、名古屋から大阪に来た時も、それは変わらなかった。出会いの場を広げるために、月に1回、友達と必ず飲み会を開くようにした。誰を誘ってもいい。誰が来てもいい。「世界一オモロイ飲み会」という明瞭快活な名前をつけて、とにかく多くの人と出会っていった。

あるとき、一人の女性との出会いをきっかけに、同会合は一気に大所帯となる。
その女性は、大阪でかなりの人脈を持つ人物だったのだ。やがて彼女が運営側に回ったことで、当初は数人だった参加者が、最大で40人を超えるほどになった。

その参加者の中で意気投合した4人が、のちに永目さんとアイドルグループ「漢塾(おとこじゅく)」を組むメンバーとなる。

「漢塾」とは、探偵や料理人・経営コンサルタント・ライター・ゲストハウス運営など、個性豊かなフリーランサー5人で結成されたユニット。飲み会を重ね親しくなるにつれ、永目さんが「あれ?俺ら、これ5人ってちょうどSMAPと一緒だよね」と口走ったことから、2019年から本格的かつ非公式に“SMAPの後継アイドル”を名乗っている。
「NO CHABAN!NO LIFE! 無駄なことを全力で」をコンセプトに掲げ、はじめは飲み会や交流会イベントなどを主催。グッズ制作のためのクラウドファンディングも実施した。「THE FIRST TAKE」のYoutubeが流行った頃には、パロディをするためにわざわざスタジオを借りてレコーディングもした。こうしたユニークな活動が評判を呼び、なんとお笑い芸人・ダイノジが主催するフェスに出るまでにもなった。

まだ勢いは止まらず、その流れで念願の「漢塾」の単独ライブも成功させたという。怒涛の勢いで活動していたため、コロナ禍で「燃え尽き症候群」になり、気分がやや落ち込んだこともあったが、これがまた新たな活動のきっかけとなる。

「くすぶっていた僕を見かねて、妻が、『日経新聞でラップバトルがあるみたいだけど、あなたこれ出たら?』って言うんですよ。僕、HIPHOPのMCバトルの動画を観るのが好きだし、夢中になれるものを見失っていたころなので、まあやってみるかと思ってやってみたところ、なんと一次審査を通って新聞にまで載ってしまったんですよ

その時のネタが「ブラック校則をぶっ壊す!」だ。
実際に教員時代だったころに感じた学校校則の理不尽さと、古い慣習にまみれた学校教育のあり方を、軽快なライムを噛ませつつゆったりとしたフローで歌い上げた。決勝にこそ行けなかったものの、実体験から生み出された永目さんのラップ動画は多くの共感を呼んだ。
さらに、知り合いのTikTokerからのアドバイスもあり、勧められるがままにTik Tokデビューも果たしたところ、これまた大反響。Tik Tokのメインユーザーである小中高生に、永目さんのコンテンツは大バズりしたのだった。

やがて、実際に視聴者から「こんな校則があって悩んでいます」「先生にこんなことを言われて傷ついた」という体験談が寄せられるようになった。その悩みに応えるようにトーク風のコンテンツに切り替え、定期的に中高生向けのライブ配信をすると、さらに多くのファンがついた。

「やっぱり、いまだに学校のブラック校則で悩んでいる子はすごく多いです。ある子は『ツーブロックにしただけで、先生に怒られて、その場で丸坊主にさせられました。こんな理不尽な校則を変えたいですがどうしたらいいですか?』ってDMをくれて。そんなことがあったのかと驚きましたが、『生徒会長になって校則を変えるように先生たちと話し合わなくてはいけないね』とお返事したところ、その後その子は本当に生徒会長になったそうなんです。
そういう意味では、子どもたちの思いを受け止めてあげる僕みたいな大人がいてもいいんじゃないかなって思います

また、永目さんは大阪に拠点を移してから5年以上にわたり続けているルーティンがある。それが「ポイ捨てアート」だ。

大学生のころにボランティアで始めたことがきっかけで、街の清掃活動のやりがいに目覚めた永目さん。落ちているゴミで絵を描いて投稿する取り組みを続けている。

「ボランティアで出会った人は年齢も国籍も職業もさまざまで、話をするのがとにかく楽しかったんですよね。そのあと名古屋に行ったときも、そのボランティア団体の名古屋支部を立ち上げたくらいハマりました。
大阪に来てから『ポイ捨てアート』の活動を知り、これも面白いなって。何をつくるかは拾ったゴミを見ながらそのときの直感で決めるんですよ。今日はどんな作品かなーって楽しみにしてくれている人もいるみたいで、ありがたいことですよね」


大学受験の予備校講師をする傍ら、男性アイドルグループのメンバーとしてもユニークな活動を次々と実施。さらには軽快なラップに乗せてブラック校則の不条理を歌い、中高生の思いを受け止めたかと思えば、清掃活動さえも“遊び”に変える。

自分に制限を設けず、どんどん可能性の幅を広げていく。
興味のある方へ迷わず飛び込んでいき、人との出会いを通してまた新たな自分を見つける。
そんな永目さんのようなオトナは、学生からしても、同じオトナからしても面白くないわけがないだろう。

「よく、人間行動学かなにかで、アイデアを持っている人が100人いたとしたら、行動に移す人はそのうちの10人しかいないし、さらに続ける人はそのうちの1人だ、という話がありますよね。これってつまり、ちょっと面白そうと思ったら、やっちゃうだけで上位10%になれる。さらにそれを続ければ、統計上は人類の上位1%になれるってことですよ。そんな存在になれるって、単純にすごくないですか?だから、あーだこーだ言わずに、未完成でも不完全でもいいから、とにかくやるところから始めたいですね。
やりたいことはなにか、と問われると、人は無意識に大きなものを考えてしまうと思うんです。起業したいとか、部活で全国大会に行きたい、とか。もちろんそれも素晴らしいですが、必ずしもそうでなくてもいい。インスタで見たおいしいうどん屋さんに行ってみたい、でも全然いい。心が揺れ動いたときに、予定を決める。それを繰り返していくことが、人生の満足度につながるんじゃないかなって思います

そうした行動と結果を積み重ねることで、“叶いグセ”がつくと、永目さんは言う。好きなら続ければいいし、嫌ならやめればいい。やめたからこそ始められることもある。それが好きになれば、また続けることで結果も生まれる。この連鎖こそが、オモシロ楽しい彼の生き方の礎になっているのだ。

「たとえば僕は、自分で絵を描いて個展を開いてみたいなと思って、Youtube見ながらデジタルイラストを2ヶ月間練習してかなり上達できたので、実際に個展開きましたからね。これでもう、『個展開いたことあるよ』って一生言えるじゃないですか(笑)。やったことがあるのとないのとでは大違い。僕でさえできたんだから、あなたもできますよって。でも、もう経験できたから今は絵画はやっていないです。そんなくらいの気持ちで、いろいろなことに挑戦していきたいですね」

そんな永目さんは、次は「なにになる」のか。もしかしたらそれは、彼自身にもわからないことかもしれない。

学校教育だけを見ても、すでに学歴だけが重視される風潮でなく、個性や思考力、主体性が問われる時代になってきている。人とのコミュニケーションも、仕事も、教育現場もAIに代替されていくなかで、単に知識をインプットしているだけでは、もうどうしようもなくなってきているのだ。

だからこそ、永目さんのように、「なにかになる」という枠にとらわれない人物が輝いていくのではないだろうか。
周りをあっと言わせるようなユーモアセンス、悩みに寄り添える優しさ、周りを巻き込んでいく推進力。

それらは今も、そしてこれからも、人にしか持ち得ないはずだ。

枠からはみ出した向こう側を、オモシロ楽しくつくっていこう。



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