愛知県豊橋市にある「水鳥製麺所」。代表の水鳥一さんは、空が白み始める朝5時半から麺の仕込みに取り掛かる。昔ながらの機械は、手慣れた人でないと言うことを聞かない。まさに阿吽の呼吸とでも言おうか、みるみるうちに、面白いほどに生地が成形されていく。
平たい形状が口当たりの良い「生ひしゃけうどん」や、ソースがたっぷり絡む「焼そば」、地元の名産品・青じそをふんだんに練り込んだ「青じそそば(うどん)」など、どれも歯応え・喉越し・味・香りに申し分なしの絶品揃いだ。
この製麺所から、この夏、新しい麺が誕生した。水鳥さんのこだわりが生んだ、素朴で力強い蕎麦のストーリーを紐解いていく。
会津の蕎麦粉を救え!こだわりが生んだ奇跡の麺
「お願いされたら、断れなくてね。なんとかしてあげなきゃという思いで、麺を作るんです」と、水鳥さんは笑いながら話す。これまでも、さまざまな飲食店の職人が「独自の麺」の開発のために、水鳥さんのもとを訪れた。そのたびに水鳥さんは、その願いをかなえるための粉を探し回り、配合を調整し、何度も試作品をつくっては夜中まで味見をした。ここで作られる麺のどれもに、そんなストーリーがあった。
あるとき、水鳥さんは知り合いから福島県会津産の蕎麦粉が売れずに残ってしまっていることを聞かされた。「こんな状況ですから、なにか力になれないかと思い、麺を作ってみることにしました」と思いを明かす。水鳥さんは、つなぎの粉の産地やその日の気温、水の分量などを自作の研究ノートにまとめ、会津の蕎麦粉が活きるベストな配合を研究し続けた。
家族や知り合いに試食をしてもらいながら、客観的な意見も大事にした。来る日も来る日も開発に明け暮れた。
困っている粉屋さんを助けたい。その一心だった。
蕎麦は、蕎麦粉とつなぎの相性が肝心だと水鳥さんは言う。「蕎麦粉の力強いゴワついた食感をなくすために、国産の強力粉・中力粉でつなぎました。蕎麦粉は、いいつなぎと出合うことではじめていい蕎麦になる。こういったご時世の中で、いろいろな業者さんが粉を提供してくれたり、ご縁をつないでくれたりして、本当にありがたいです。みなさんの思いに応えられるような、最高の蕎麦ができあがりました」
茹でた時の、黒々とした素朴な蕎麦の色。この見た目とは裏腹にさらりとした喉越しと、後から追いかけてくる香りがたまらない。水鳥製麺所特製の万能つゆの素を使えば、濃厚な醤油の味わいと相まってどんどん箸がすすむ。
離れて暮らすあのひとに、体を気遣うあのひとに。自宅用だけでなくお中元にも打ってつけだ。
たくましい東北の肥沃な大地が育んだ蕎麦粉は、水鳥さんの情熱でどこにも負けない力強い蕎麦になった。会津の地に思いを寄せながら丁寧に食したい。
水鳥製麺所
愛知県豊橋市植田町西山田12-8
TEL/FAX 0532-25-2520
11:00〜17:00(麺直売時間)
日曜休(祝祭日は営業)
※購入は電話・FAXまたは直接店舗へ
水鳥一さんのインタビュー記事(全3回)はこちらから↓
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