廃旅館を利用して新たな価値に。暮らし方・生き方を見つめなおす。

愛知県南部に浮かぶ篠島で、ある取り組みが始まっているという。
なんでもそこには、心地よい音楽と見渡す限りの海と空、そしてお金では買えない出会いが待っているのだそうだ。

灼熱の太陽が肌を焦がす、ある夏の日のチルな時間を振り返る。

師崎港から高速船で約10分。港こそ幾分か観光要素はあったものの、乗り合いタクシーで1分も走ると、あたりは住宅が広がるのどかな港町の様相を呈した。

島のメインストリートに出れば、にぎやかな海水浴客の声が耳をくすぐりはじめる。サイダーのような浅い色の海が、きらきらと反射を繰り返す。SUPに興じる若者やシュノーケルに浮き輪を装備した子どもたちが、それぞれの時間を楽しんでいた。まったりと顔をなでる潮風も、これでもかと照り付ける太陽も、とても心地よかった。

目的の場所へ着いた。「Buenavista(ブエナビスタ)」だ。

ここは、もとは4階建ての旅館だったという。外装だけを残し、内部はほとんど解体した。島の内外から仲間たちが集まり、そのときに出た廃材を利用して、新たに「人と音楽と出会いが生まれる場所」を作ろうと計画している。
店名の「Buenavista」も、スペインやキューバなどで「絶好の出会い」「絶景の場所」といった意味があるという。まさにこの場にぴったりな名前だ。

仲間たちは、偶然見つけた「刺し盛の船形」にペイントをしたり、木材で照明器具を作ったり、海で拾った貝殻やゴミとして落ちていた釣り具なども利用して家具やオブジェの製作に取り掛かっていた。
それぞれが持ち場について、今ある材料でできることを楽しみながらやっている姿が印象的だった。

仲間のうちのひとりは、木彫りの鳥と捻じ曲げたワイヤー、ガラスの浮きを利用して素敵なオブジェに仕立てていた。親鳥が優しくひなを見守るような素朴なぬくもりや、廃材だからこそのユニークな風合いを感じられる。

お昼少し前には、地元の漁師さんが獲れたての生シラスを持ってきてくれた。氷水でシメて、ほんの少し醤油を垂らして食べる。口の中が程よい塩気に包まれたかと思うと、つるんと胃の中に落ちていくのを感じた。
「島でしか、こんな食べ方できないからね!」。その言葉が、一層おいしさを添えた気がした。

力を出す人、車や道具を貸す人、絵を描く人。
それぞれの役割で役に立つ。
これこそが、昔ながらの「コミュニティー」の在り方だったではないだろうか。
ここで汗を流す彼らを見ていると、我々も「知らせる人」として役に立たなくてはと強く感じた。

何かをしに来てもいいし、何もしなくてもいい。好きな音楽を聴きながら、自由に過ごせばいい。何かしてもらったらできることでお返しをして、センスや個性を出し合って新しいものを生み出していけばいい。自然や文化の中に身を置いて癒されながら仕事をし、他人でも家族のように思いやって、つながりの中で生活をする。せわしなく、殺伐とした今の世の中では、置いてきぼりにされてしまった考えだ。

いずれは「Buenavista」の2Fより上の個室部分も整え、アーティストが住み込みで創作活動をしたり、リモートワークの拠点にしたりできるようにするという。
ここで自分の生活をしながら、空いた時間には島の産業の手伝いをするのもいいだろう。島の中と外、音楽と人、仕事と人、人と場所、素材と感性。そんなあまねくヒト・コト・モノが絶景の下で出会い、循環して持続し続けていくことができたら。
「Buenavista」は、大きく変わろうとしている未来の暮らし方の、小さな実験場になりうるのかもしれない。

Zoomの背景が青い空と海だなんて、都会にはない、とびっきりの贅沢だ。

「Buenavista」は、あえて“完成”は目指さず、時代や人の流れに合わせ、いつでも自由に変化しながら持続する、サステイナブルな存在でいるという。

美しく静かに海が橙色に染まっていくのを眺めながら、
私もまた、なにかと出会えたような気がした。

Text:光田さやか
Photo:荻野哲生

Project leader : 山本雄大
Address : Shinojima island Aichi Japan
Tel : 090-5113-2778
Mail : tehereke20200401@gmail.com
HP : Building now.
Collaborative art projects:
スタジオサワダデザイン
安念智佳
エリオット・ヘイグ
澤田奈々

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