生粋人

<第2回>音と人の揺らぎの中で。僕の綴る“ストーリー”。――「株式会社SW」代表・西澤裕郎

「抗う人々」のカッコよさ。文化や思想で人は変わる。

ロック、オルタナティヴ、パンク。
そんなジャンルの洋楽を聴くたびに、彼の心に何かが宿った。アーティストの放つ一音に、一言に、思想やメッセージが込められている。
何かに抗い、歯向かうその精神は、かつて感じていた自身の中の思いを呼び起こした。
それは、『抗うことのカッコよさ』だった

自分はこれでいいのか?みんなと同じでいいのか!?同じなんざ、まっぴらだろ!
ロックシンガーの雄叫びよろしく、西澤さんの心は声を上げた。

大学4年になり、就職活動を始めた友人らがこぞって髪を黒く染める。
だが西澤さんはしなかった。

似たようなスーツを着て面接へ行く。就職が決まり、また茶色に染めなおす。
だが西澤さんはしなかった。

しかしさすがに働かないのはどうかと思い、やはり就職は考える。「職場の先輩と飲みに行く」というフレーズを言ってみたかった、というのもある。
教員?熱こそ冷めこそしないが確実にぬるくはなっていた。採用試験なんていつでも受けられるしいいだろう、と思うほどに。
一般企業や飲食店?どの会社もしっくりこなかった。
なにかがくすぶっていた。

結局、学生時代から書店でアルバイトをしていたこともあり、岐阜の書店で働くことにした。
本に関わる仕事は好きだった。
アナログな在庫管理の方法も、スーツ禁止・服装自由な社風も、自分に合っていた。
しかし、月100時間超もの残業が当たり前であったり、「売りたい本と売れる本のギャップ」に悩んだりしたため、1年半で退職。
次の就職は、と急ぐこともないかと、西澤さんは人生をゆったりと構えた。
くすぶったなにかは、一旦、鎮火した。

書店店員時代の同期とは、互いの家を行き来するほどの仲だったという。
本の話や哲学の話、モノの考え方の話。個性的な仲間と夜な夜な語り明かした。

中でも、文化や思想の話は西澤さんにとって非常に興味深いものだった。

彼らと生活を共にし、好きに放浪していました。その中で体験すること、出会う人、感じるもの…。全てが僕にとって新鮮でした。これまでの僕の持っていた価値観とは全てが違った。繊細で、豪快で、文化的で、自然体な世界観。カルチャーショックだったんです。そして、文化や思想でこんなにも人間は多様になるんだと、実感しました

新しい考え方や習慣に触れる。自分もそこに溶け込んでみる。
思えば西澤さんは高校時代からそうだった。

不良に興味を持ったときも、友人の影響で新たなジャンルの音楽や洋画、洋書に触れたときも、仲間と暮らして夜通し話し込んだときも。
西澤さんは彼らの“内部”に入り込むことで、彼らの「多様性」を体感した。

しかしそんな刺激的な日々も、貯金の枯渇とともに終焉を迎える
再びくすぶり始めたなにかを胸に、彼の足は、東京へと向かった。

第3回へ続く>

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