鮮度抜群の食材がずらり。会話のやりとりも元気の源に。

草木も眠る朝4時すぎ。3月とはいえ冷え込みの厳しい朝のことでした。防寒着に身を包んで、名古屋市緑区にある和食処「花ごころ 緑苑」の前に集合しました。
今回は、女将の伊藤嘉美さんのご好意で、仕入れに同行させていただけることになったのです!

小声で「おはようございます!」と交わし、お店のワゴンにいそいそと同乗。向かうは日比野にある名古屋中央卸売市場本場。名古屋市内外から職人やスーパーのバイヤーが集う、いわばあらゆる“食”の台所です。

当然ですが、外はまだ真っ暗。

「花ごころ 緑苑」さんではほぼ毎日、この時間に出発して仕入れを行なっています。「祝日をはさんだりするとお客様も多くいらっしゃるし、そのあたりを料理人さんと相談しながら、仕入れる量を決めているの」と嘉美さん。加えて、長年付き合いのある魚屋さんからは毎日新鮮な魚が定期便で届くのだとか。一年中欠かすことなく、雨の日も風の日も雪の日も。お店とお客さんのために旬の食材を仕入れに出かけます。

5時過ぎ、市場へ到着。
許可を受けた業者しか立ち入ることのできない、貴重な現場です。

駐車場には軽トラックやフォークリフトがせわしなく移動しています。一応、この店はここに停める、と決まっているようですが、駐車スペースなんてあってないようなモノ。「ここではボケボケしていると轢かれる」。そうとしか言えない状況でした。

「さー、私たちも行くよっ!」

勢いよく車から降りた嘉美さん。
とんでもない朝が始まる予感がしました。

嘉美さんがまず向かったのは青果売り場。料理人さんと相談して決めた食材のリストを手に、挨拶もそこそこに「これと、これと、あとこれも…」とお店の人と話しています。今日入った旬の食材も吟味して、現地で追加もしていきます。

段ボールには、日本全国さまざまな都道府県の名前が記載されていました。私たちが到着する数時間前に、卸売業者たちは競りを終えているのだそうです。それが終わると直ちに店頭に品物を並べます。
そこへ料理人や職人さんが仕入れに来て、良い品物を鮮度のいいうちに購入していくというわけです。

そして、とにかく嘉美さんの動きが早い!
「品物をお願いして、箱につめてもらっている間に、次のお店に行くよ!」と嘉美さん。
「あれ?品物受け取らないんですか?お支払いは?」と矢継ぎ早に聞くと、
「品物は、私が他のところをまわっている間に業者さんが車に積んでおいてくれるの。お代は銀行から引き落とされることになっているから、ここで現金のやりとりはしないのよ」とのこと。

そうなのですか!知らなかった。
とにかく時間が勝負なわけですね!ついていきます!

次は鮮魚売り場へ向かいました。
100cm以上はありそうな丸々としたマグロやブリが、当たり前のように台車に載って行き来しています。そしてそれを、あちこちで掻っ捌いている!すごい光景だ…!

「今日はどんなものが入ってる?何かオススメはある?」と尋ねる嘉美さん。「おはようございます!今日は福井の天然本マグロが入っていますよ!」。
赤々とした身は見るからにモチモチしていて、しっとりと脂をまとっていました。これはうまそう!!今すぐ刺身でいただいてしまいたい!!

次の店、また次の店と、あちこちで足を止め仕入れを続ける嘉美さん。「お野菜でもお魚でも同じお店で全て調達するわけではないのですね。たくさんある業者の中から、どうやってお店選びをしているんですか?」と尋ねました。

「先代からのお付き合いがある業者さんが多いかな。うちのお店はこうだ、とわかってくれているのもあるし。でも、他の業者さんもちゃんと見ているのよ。それでこっちも、品揃えや値段の傾向を掴んだり。『このお店にはこれがあるんだなあ、今度買ってみよう』とかね。私は母からお店を継いだんだけれど、母がよく関係づくりをしていてくれたんだなあと思うばかり。どこへ行っても『お母さんは元気!?』って声をかけてくれて。だから私、ここへ来るといつも元気をもらえるのよ」

一通り仕入れを終え車に戻ると、購入した食材たちがきれいに積まれているではありませんか!何という手際の良さ!買い忘れ、積み忘れがないかをしっかり確認して、名古屋中央卸売市場本場を後にします。

うっすら白み始めた空が清々しくて。
駐車場を走り回っていたトラックやリフトも、すっきりと姿を消していました。
それぞれのお店に戻っていったのですね。

時刻は6時をようやく過ぎたところでした。

嘉美さんの仕入れは、実はまだ終わりじゃないのです。
このあとは名古屋駅の裏に位置する柳橋中央市場へ向かいます。

柳橋中央市場は、一般のお客さんも自由に購入できる場所。現在は中止されていますが、魚屋さんによる解説付きの見学ツアーもあるほど、観光スポットとしても有名です。

さっきもたくさん購入されていましたが、ここでは何を仕入れるのでしょうか?

「柳橋では、高級な食材を少量で買う。さっきの名古屋中央卸売市場本場では、ケースや箱売りでしか買えないから、煮付けにするようなメバルや金目鯛、名物のエビフライ用のエビをケースごと買ったり。そうやって2つの市場を使い分けているのよ」

「おー、嘉美ちゃん!おはよう!今日はお連れさんがご一緒とは珍しいね!」と威勢のいいお声をかけてくださったのは、昭和5年創業の「飯田商店」の大将。「魚のプロとして、おいしい魚を届ける」を信条に、客のニーズに合わせた食材を提供しているそうです。

この日は、のれそれ(穴子の赤ちゃん)や大阪から上がってきたイワシなどがお買い得だと話してくれました。
こうして魚についての説明を聞くことができたり、珍しい魚に出会えたりするので、市場でのお買い物は楽しいですよね!

おおー、かなりテンションの上がる光景!
たくさんのお店が軒を連ねていて、目移りしてしまいます。

どこへ行っても、声をかけられる嘉美さん。
朝からこんなにたくさんの活気と笑顔に会えるのなら、元気にもなれますね。

途中、野菜や果物を中心に取り扱っている「名促」さんの代表取締役社長・杉崎一さんにお話を伺いました。全国から良いものをお値打ちに取り揃えている「名促」さんですが、コロナの影響で売れ方に少し変化があったと話します。

「結婚式場やホテル関係のお取引先が減ったこともあり、箱入りフルーツの売れ行きが落ち込んでしまいました。けれどそれを逆に機会と捉え、一般のお客様への販路を拡大していけたらと思っています」

ちょっとしたお祝いごとやお礼の品に、贈答用のフルーツを。
そんな思いを持つ一般客を増やしていけるように、売り方や従業員の教育を考えているのだそうです。例えばそれは、全員が“プロの目線”を持つこと。言われたことをただするのではなく、自分で考えて客のために行動すること。
変えられない状況を嘆くのではなく、自分から変えていける状況をつくり出していくことが大切なのですね。

“食”の商いの現場。
それは刻々と変わる世の中の状況に左右されやすい業種ながらも、客やお店のためにそれぞれが工夫をし、それぞれの仕事を全うしている空間でした。
いいものをお得に、はもちろんですが、そこには決して値段や品の良さだけでは語れない、人と人との繋がりがあるのですね。

帰りには、「花ごころ 緑苑」さんとお取り引きのある酒屋「富屋酒店」に立ち寄り。
ここにある全てのお酒を試飲し、酒蔵に足を運ぶという店主の上田豊二さんにお話を聞きました。
食事をさらに奥深くする酒の魅力。
蔵人さんの思いも一緒に味わうと、また違った感じ方ができそうです。

食材に込められた生産者や売り手の思いを一皿に。和食で魅せる季節感。

お店に戻ってきたのは9時ごろ。息つく間も無く、車から大量の食材を手分けして降ろします。
ランチが始まるまで、仕込みの時間です。

この日のメインは、大きな鯛のあら煮やイカの刺身など。野菜を中心としたおばんざいも豊富につくるのだそうです。

料理人・佐藤友康さん。若干17歳で和食の道を志し、以来、名古屋や三河の和食店で研鑽を積みました。
食材と向き合う時に心がけているのは、「どうしたら季節感を出せるか」ということ。

「特に“はしり”を意識しています。まずは目で『もうこんな時期なんだね』と感じてもらい、お召し上がりの際も楽しんでいただけたら嬉しいですね。四季を感じる盛り付けや彩りは、和食が魅せることのできる華やかさでもあると思います」

一皿を彩る食材ひとつにも、心を込めて育てた全国の生産者の思いや、厳しい目線で品を定め競り落とした業者の思いが込められています。
それらを少しも無駄にしないように、調理も盛り付けもお品書きにも真心を込めて、「花ごころ 緑苑」の料理はつくられているのですね。

早朝4時から密着してきた“食”のリアルな現場。
一日を通じて、こうして料理がいただけることへのありがたさを実感することができました。

嘉美さん、並びにお忙しいところ取材にご協力いただいた名古屋中央卸売市場本場、柳橋中央市場の皆様、「花ごころ 緑苑」の皆様。
ありがとうございました!

花ごころ 緑苑
住所:名古屋市緑区曽根2-156
TEL:052-624-2351
11:30~14:00、17:00~21:00※変更の可能性あり
月曜・第3火曜休
Pあり

2 件のコメント

  • 緑苑さんや喜美さんの食への拘りや歴史がよく伝わりました。
    だから、誰にでも好かれる春夏秋冬の味が出せるんだ。それにしても、朝が早いんですネ‼️
    貝類専門店の大橋さんご夫妻も頑張っているんだ。
    何時も美味しい食事をありがとあございます。

    • 米川様
      コメントいただきありがとうございます。
      ご推察の通り、嘉美さんや料理人さんたちがお客様のために欠かさず仕入れを続けるのには、
      確固とした思いがありました。
      そして卸売り業者の皆様にもそれぞれお考えがあり。
      たくさんの人のおかげで「食」の現場がなりたっているのだと改めて感じました。

      今回の取材では、早朝のお忙しいお時間にも関わらず、
      どこへ行っても皆様によくしていただき、とてもうれしかったです。
      市場で出会った皆様の温かいお人柄と活気に、
      私たちも元気をもらいました。

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