元・和食料理人が手掛ける、「粋」な一杯。
雨のそぼ降る三月下旬。名古屋市緑区の桶狭間に、どうにも気になるラーメン屋さんを見つけてしまいました。
それがこちら。
一見するだけでは本当にラーメン屋さんなのかと、見紛うほどの佇まい。
ここではどんな一杯が待ち受けているんだろうか…。
店内は、広々としたカウンター席と、掘りごたつ席が2つ。大きく開かれた窓からは、雨露の滴る桜の木が見えました。
しっとりと苔むした庭園。趣がありますね。この庭も季節ごとに移ろいを楽しめるのだとか。
そして店の中にふんわりと漂うのは…濃厚な「蟹」のにおい。
出汁に渡り蟹を配合しているとのことでした。
この香りだけでも、期待が高まります…!
カウンターに腰を据えると、2人の職人さんが静かに作業をされている様子を、目の前で見ることができました。ラーメン屋さんっぽい、いわゆる活気のある感じではなく落ち着いた雰囲気。奥の鍋には黄金色に輝くスープがくつくつと煮込まれていて、なんとも居心地のいい空間…!
和紙で作られたメニューを見ながら、お店の王道「鴨はちらーめん」と梅ペーストが添えられた「梅吉らーめん」、そして「鴨味噌ごはん」をオーダーすることに。
北海道産の鴨ととびうおをベースにしたスープがきらりと光ります。
醤油のコクをしっかりと感じられ、そのあとからふんわりと抜けていく出汁の風味がなんとも上品。
ぷるぷるとした鴨肉は、臭みも固さもなく。噛むほどに味わい深いのです。
つるりとしてのど越しのいい玉子麺は、なんというかもう品がいい。
育ちのいいお嬢さんって感じ。
桜の葉も、湯気に乗って春の香りを添えます。
こちらはまた違った味わい。「鴨はちらーめん」のスープに、南区笠寺で作られた白醤油を配合しているあっさり味。
さらさらとしたスープは本当にクセがなく、なんというか飲みやすく、舌になじみやすい感じ!
梅干しのペーストを溶かしながらいただくと…。これまた酸味がイイ!白醤油のスープと相まって、どことなく「和」を感じられます。
鴨肉を刻んで甘めの味噌で仕立てています。言わずもがな、ご飯が進む進む。
さらに驚いたのがこちら。
ラーメンに先付けが添えられている!
「当初はラーメンの上に具材として載せていたんですが、季節の素材をいろいろ使いたくて。それぞれの味が引き立つような味に仕立てて、先付けとして出すことにしました」と店主。
旬の素材を味わってほしいとの一心。なんという気遣いだろうか…。
聞けば店主は、元和食の板前さん。どうりで…と首肯せざるをえないですね。
中華をはじめたきっかけは、自身が仕事で中国で飲食店を営んでいた経験から。帰国後、なにかおもしろいことを、と思い付き、試行錯誤の末に現在のラーメンを考案したのだとか。
その要となるのが、和食の丁寧さ。下処理や出汁などはもちろんのこと、店内の隅々やメニュー表に至るまで、目に映るすべてに心配りを感じられるような工夫が、随所に凝らされています。
メニューには「安心・安全というありきたりな言葉じゃなく、自分の子どもに胸を張れるような一杯を作っているだけ」と店主のメッセージが。
うーん。これぞまさに“粋”ですね。
押しつけがましくない、そして後味のいい。そんな「和の神髄」をしっかりと感じられるお味でございました。
ごちそうさまでした!
酒楽亭 空庵(くうあん)
名古屋市緑区武路町122
052-622-9888
11:30~14:00 18:00~21:00(なくなり次第終了)
木、 第2 ・3水曜休
Pあり
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