<最終回>このコたちにできること!わたしは“プロデューサー”。――にんじんちゃん・永井千春

農業に従事する者であるために。いつでも笑顔でいるために。

これまで、千春さんのプロデューサーとしての技倆(ぎりょう)をお伝えしてきた。なにごとにも精力的な彼女だが、根底にあるのは、先祖への感謝の思い

「やはり農業というのは、昔の人が築いてくれた土台なしには成り立ちません。土地を開墾し、土壌を育て、守り、その技術や伝統を伝えてきたからこそ、今私は自由にやらせてもらってるんだと思います。そのご縁に感謝し、恩恵にあずかりながら、自分らしい農業をやれたらいいなと思っています

最近では、男女問わず若年層や転職での農業従事者が増えてきている。畑をまるごと一反借りて自分で管理したり、農家のもとでより専門的な知識を学び独立する人など、さまざまだ。
「そういう人が増えてくれるのは、本当にうれしいんですよ」とほほ笑む千春さん。
でも、と続ける。

「『俺の育てた大根!』『私が手塩にかけたレタス!』と意気込むのも、いいと思います。野菜を一から育てることの大変さは、私もよくわかりますし、本当にすごいことなので、そう言いたくなる気持ちもわかります。
でも、自分がやった!ではなくて、まず土地や地域に感謝してほしいなと思うんです。
どんなに頑張っても対策しても、自然の力にはかないません。
収穫目前で、一夜にしてダメになってしまうことも少なくないです。ぐしゃぐしゃになった畑を見て愕然として、お金の損失もすごいことになって、泣きたくなることもあると思います。


でもそういうときに手を差し伸べてくれるのは、きっと周りの農家さんです。
古くから一途に、成功も失敗もたくさん経験して、乗り越えてきた、地域の人たちです。
そういう方たちの知恵や力を借りて、地域で農業をする。
そんなあり方が素敵だなと思います。
農業への夢や憧れを持って、私たちの仲間になってくれるのはうれしいので、その気持ちだけ、忘れないでいてほしいな」

昔があって、今がある。
今があるから、先が見える

どんなことでも、いきなり「今」があるわけではない。
方法を考え出したひと、方法を教えてくれたひと、場所を提供してくれたひと、意見や注意をしてくれたひと、応援や激励をくれたひと…。過去にはたくさんいたはずだ。
そんな「昔」をないがしろにして、「今」はやはり成り立たないのだと私は思う。
かつての出来事や人の気持ちに思いを巡らせ、今の自分ができあがったことに感謝する。今の自分を素直に見つめることで、これからやるべき「先」がわかってくるのかもしれない。

だから逆に言えば、先が見えなくて不安なときは、今の自分を客観的に見る時間が必要だということなのだろう。
そして、過去の出来事や思い出をゆっくりと振り返ってみるのもまた、ときには必要なことなのだ。

彼女と話してみて、そんなことを思った。

私は彼女の笑顔が好きだ。

ほんわかしていて、おっとりしていて、見ているだけで心が温かくなるからだ。

「なぜそんなに、ずっといつも笑顔でいられるんですか?」

この、私の質問に彼女は、やはり笑顔で答える。

えー、簡単ですよ。人参があれば、私はいつでも笑顔です!好きなことをしていれば、誰でも楽しいでしょ?土を耕すときも、種まきのときも、育っていくときも、収穫して出荷するときも。育てるだけじゃなくて、どうやって販売しようとか、どんなイベントを開こうとか、ずーーっと人参のこと考えてるから。やっぱり、プロデューサー体質なのかな(笑)。
にんじんって、ホラ。にん(人)と、じん(人)で、どっちもヒト!
人と人をつなぐ野菜だと思うんです。ねっ?そう思うだけで、ワクワクしてきませんか?
だから私はいつも『楽しいことさがし』をしているんです。コレが楽しいかなー。こうするともっと楽しいかなーって!
これからも、そんな私であり続けたいです」

Photo:荻野哲生
Text:光田さやか

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