生粋人

<第1話>譲れない“大義”。モノづくりの未来を見据えて。「REAL Style」代表・鶴田浩

市内でも有数の目抜き通りである大津通に、一際高級感を感じさせるライフスタイルショップが佇む。材料・デザインにこだわり、オリジナル家具を販売する「REAL Style」だ。シンプルかつスタイリッシュでありながら、細部に宿るデザイナーの個性。ぐっと目を引くその家具の数々は、設立の2002年以来、厳しい審美眼を持つ多くのファンを虜にしてやまない。

代表の鶴田浩さんは、この名古屋という土地で、長年モノづくりに携わってきた。インテリアの世界だけに留まらず、建築やファッション、デザインなど、ありとあらゆるカルチャーの最前線を常に見た。時には名古屋を離れ、客観視もした。「そうすることで見えてきたものが、今の自分のベースになっていますね」と話す鶴田さんに、過去から未来まで、ゆったりと語っていただいた。

ディープなナゴヤカルチャーに触れた学生時代。

幼い頃から、図画工作やモノづくりが好きだったという鶴田さん。建築関係の仕事に就く父親のもと、愛知県豊明市の穏やかな街並みの中で元気に育った。

「小学5年生のときに父が設計して自宅を新築しまして。その時に、父の友人や知り合いの大工さんが来て家ができていく様子を見たり、家具が入る前の家を掃除したりするのが楽しくて。こういう仕事いいな、って漠然と思っていました」

勉強があまり好きではなかった、とご本人は謙遜するが、小中学生では学級委員をやるなど健康優良児として過ごしてきたという。地元でも有数の進学校へ進み、大学は興味のある建築を学べる学校を選んだ。

大学生が主体となったベンチャービジネスがにわかに流行り出したのも、このころだった。当時は大学生の持つネットワークに価値や影響力があったため、鶴田さんも例に漏れず、名古屋の広告代理店やイベンターと組んで、海外旅行ツアーやクラブの周年パーティー、新店舗のオープニングレセプションなどを企画した。この時は華やかなマスコミ業界にあこがれたという。なぜなら、現場にはいつも“リアル”があったからだ。社会を動かし、ムーヴメントの一端を担うという、授業では学べない温度を感じられたからだ。鶴田さんは仲間たちと「今の10円より将来の10万円をつかむ」というスローガンを掲げ、ベンチャービジネスに励んだ。

「ところがあるとき、瀬戸にオープンする陶器のショールームのプロモーションを担当したことがきっかけで、僕は『やっぱり建築っていいな』と考えを改めるようになったんです。マスコミもいいけれど、何か違う。やっぱり僕は建築が好きだ。将来の仕事は建築だなと。これまでなんとなく大学に通ってしまっていたけれど、もっと真剣に、建築を学びたいと思いました」

そこで、「有名な設計事務所で研鑽を積もう」という考えにならないのが鶴田さんだ。なんと驚くべきことに、名古屋の第一線で活躍するデザイナーやクリエイターらが集まるというバーやファッションビルで働き始めたのだ。そこには新進気鋭の若手から大御所まで集い、ディープな名古屋でモノづくりや音楽、デザインの在り方などについて語り合っていた。
そして、当時まだ名古屋ではなじみの薄かった「ライフスタイル」という概念を鶴田さんが知ったのも、このときだった。

「いやー、こんな世界があったのかと(笑)。僕は彼らからいろいろなことを学んだ。そして、思ったらすぐ動くことの大切さと、現場でリアルを見て温度を感じることの大切さを改めて感じました。その後、夏休みを利用してヨーロッパの街並みや建築が見たくなり、3週間旅をするんですけどね。日本にはないものがたくさんあって驚きました。日本にはまだ存在しなかった『ライフスタイルショップ』があったんですから

現在、大学で教壇に立つこともあるという鶴田さんは、自身の経験を踏まえ、学生たちに積極的に視野を広げるよう教えているという。「勉強は紙の上だけでするものではない、社会に出て、現場を見て、こすられてこそ勉強だ」と。

大学へ通いながら、名古屋の最先端なカルチャーを体感した鶴田さんは、いよいよ建築業界へと就職を決める。
しかし意気揚々と叩いた門の向こうでは、いきなりの“大仕事”が待っていた。

第2話へ続く>

コメント

  1. 鶴田さんの幼い頃や若い頃の話しが凄くワクワクしました。お父さんへの憧れがあったのですね。実は僕も設計事務所を営む父の背中を憧憬の眼差しで見ながら育ち、中学生のころ現場監督だった鶴田さんにお会いしていた事を大人になって知りました。

      • meetsme
      • 2020.08.02 6:51pm

      倉橋岳様
      コメントいただき、ありがとうございます。
      お父様の影響で、幼少期から建築への憧れがおありだったようです。
      学生時代のお話は、聞いていて私もワクワクしました!学生ベンチャービジネスに、バーでのアルバイト、そしてヨーロッパ旅。
      お若いうちから広い視野をお持ちだったんだなと感じました!
      岳さんもお父様の背中に憧れてお育ちになったのですね。そういう方は自然と「人に見せる背中」をお持ちになるのかもしれませんね。
      中学生のころ鶴田さんともお会いされていたとは…。出会いは大切にしたいものですね。

      光田

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