甘くてふわふわで、大人も子どももお年寄りも、みんな笑顔になれる。メロンパンには、そんな魅力がある気がする。見た目もちょっと大きくて1個で大満足なのに、気づくともう1つ、と手が伸びてしまう人も多いはずだ。

そんなメロンパンに恋をした人がいる。
はじめは見ているだけでよかったのに、もっと近づきたくなって、もっと知りたくなって。気づけば自分がメロンパン屋さんになっていたというのだ。

「メロンパンがとにかく好き。一方的な片想いなのかも?とにかくおいしく焼きたくて、ずっとメロンパンのこと考えてるんだ」

タイマーに呼ばれてオーブンを開けた彼女は、とびっきりの笑顔で「今日もおいしく焼けた~」とつぶやいた。

味にほれ込んで、常連に。まさかの転機は突然に。

彼女の名前は、山中美佳さん。名刺に「メロンパン大好き職人」と書いてしまうほどのメロンパン好きだ。熱田区の神宮前商店街で、専門店「メロンパンPOPO」を営む。山中さんが職人になったきっかけは、実に些細なことだった。

「店舗ができる前は、工場から直接駅とかにパンを出張販売してたんだ。私はその配達の仕事をしていたんだけど、『おいしそうなメロンパンだなー』ってずっと思ってて。いつか直接触りたい!いつか食べたい!って思いながら配達してた(笑)」

「メロンパンPOPO」は今から17年前、店舗を持たず移動販売車から商売をスタートさせた。山中さんによれば、店名は「タンポポの花のように黄色くてかわいいメロンパンが、お客さんの所で綿帽子になり、おいしさがどんどん広がっていくように」と先代が名付けたそうだ。名古屋近辺にお住まいの方は、かわいらしいイラストが描かれたこの車を、一度は目にしたことがあるだろう。もちろん今でもこの移動販売車は現役で、緑区白土にあるヤマナカフランテや高畑駅などで活躍中。ホイロ(発酵機)とオーブンを搭載しているため、焼きたてメロンパンが味わえる。

移動販売を始めたのと同じ年に、以前のオーナーはこの地に店舗を構えた。たまたま見つけた空き物件だったが、朝、昼、夜と人の往来が多く「ここしかない!」と即決したそうだ。その後、瑞穂区の新瑞橋にも出店。山中さんはこの新瑞橋の店舗でようやく、自分が配達していたメロンパンの味を初めて食べた。

こんなにおいしいなんて!と、山中さんは感動したという。表面はサクッとしているのに生地は驚くほどふんわり。甘さもちょうどよく、いくらでも食べられそうなやさしい味わい。それからというもの時間を見つけては店に通いつめ、思う存分味わった。

いつしか、オーナーから「そんなに好きならお店やってみるか?」と声をかけてもらうようになったという。パンづくりの経験は全くなかったが、「こんなにも大好きなメロンパンと毎日一緒にいられる!」という思いが勝ち、この世界へ飛び込んだ。作り方や店舗運営をイチから学んだが、これが天職だと思えるほどに毎日が楽しかった。
「この店、山中さんに任せたぞ!お客さんを笑顔に、元気にしてくれよ!」。その言葉と共に、前オーナーからこの店を受け継いだのが4月のこと。
「逆にお客さんに笑顔と元気をもらっているけどね。まだまだ未熟者だ」と山中さんは話す。

「うちの自慢のクッキー生地。でも、雨の日はとても扱いにくくて。ご機嫌とらないとおいしく焼けてくれないんだ。ほんと、片想いしてるなあって感じ(笑)」

困ったように笑った顔が、人としてとても魅力的だった。

取材中も、ひっきりなしに客が訪れていた。あるご老人は「3、3、3でお願いね」と暗号のように告げ、山中さんもそれに「いつものとおりね」と笑顔で用意をする。
トラックの運転手は「ルートの途中にいつもここに寄るんです。疲れたらメロンパン食べて、もうひと頑張りするぞーって。今日は松阪まで行くんだけど、運転頑張れそうだ」と話してくれた。「いつもありがとうね。今日も気を付けて行くんだよ!」と山中さんは手を振って見送った。

タンポポのように咲いたのは、メロンパンだけではない。
親しみやすくてあたたかで、街の片隅にぽっと咲く山中さんの笑顔そのものだった。

「あの味」を絶やさずに。

この店舗のほかに、移動販売車での出店販売や新瑞橋店など、いくつも掛け持ちしている山中さん。どこへ行っても、お客さんの笑顔に会える。それが一番うれしいのだという。
あの子、大きくなったかなあ。あのおじいちゃん、おばあちゃんは元気かなあ。
山中さんは行く先々で、客を思う。

「ここ、熱田神宮の近くだから、合格祈願のついでに寄りましたー、っていう子もいたりして。それで『無事合格しました!』ってそのあと報告に来てくれて。うれしかったなあ。『東京の大学に行くから、食べ収めだー』なんていうから、寂しくてさ。でもこっちに帰ってきたときにまた寄ってくれて『あー、この味だ』って言ってくれたんだ。『東京はなんでもあるけど、この味だけはないんだ』って」

東日本大震災のときに至っては、自分にもできることはないかといてもたってもいられず、メロンパンラスクを大量に作って被災地へ送ったという。迷惑がられるんじゃないかという不安もあったが、少しでも喜んでもらえたらという一心で、どれだけ腕が痛んでも作ることをやめなかった。

すると後日、「福島から来ました」という客が店を訪ねてきたのだという。その客が彼女のラスクを食べたのかはわからなかったが、被災地で「メロンパンPOPO」の名を耳にしたことは間違いない。
さらに、一度このメロンパンを購入した熊本からの旅行客が「あの味が忘れられない」と再び来店したこともあるという。
SNSもホームページも持たないこの店だが、訪れた人の記憶の中にはしっかりと存在していたのだ。

誰かにとっての「あの味」を守り続けること。それが自分の使命だと、山中さんは話す。パン屋さんもメロンパンも数あれど、「メロンパンPOPO」のメロンパンはここでしか食べられない。誰かにとってのオンリーワンであればいい。山中さんはそんな思いで、メロンパンと向き合っている。

山中さんはことあるごとに「メロンパンに片想いをしている」と話していたが、果たして本当にそうなのだろうか?
彼女の作るメロンパンは、彼女の手を離れても、風にのってふわふわと漂って、どこかで笑顔の花を咲かせている。

素敵な両想いが成立していないと、ありえない話だ。

メロンパンPOPO
名古屋市熱田区神宮3-1-1
052-683-0203
9:30~17:30(売り切れ次第終了)
月・水休(臨時休業あり)

Text:光田さやか
Photo:荻野哲生

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